Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2004 Apr;30(4):536-55. Epub 2004 Mar 3 を参考に抜粋
初期治療 |
具体的な方法 |
初期治療 |
- 重症敗血症あるいは敗血症に伴う組織循環不全(低血圧あるいは乳酸アシドーシス)⇒すぐにICU での治療を開始
- 乳酸値の上昇は血圧の保たれている患者において組織循環不全の指標となる
- 敗血症による循環不全に対す最初の6 時間の治療目標は以下の指標を保つこと
- CVP 8-12mmHg
- MAP ≧65mmHg
- Urine output ≧0.5ml/kg/h
- Central venous or mixed venous oxygen saturation ≧70%
- 6 時間以内の初期治療⇒ CVP 8-12mmHg を保つように輸液を行ってもScvO2またはSvO2 を70%以上に保てない⇒
- Ht 30%を保つように赤血球輸血 and/or
- ドブタミンを最高20μg/kg/min まで投与
|
診断 |
- 「抗菌薬開始前」に適切な培養検体を採取。
- 血液培養は末梢から1 セット、血管内カテーテルから1 セットの合計2 セット採取
- 尿、髄液、気道分泌物などの検体も臨床状況に応じて抗菌薬開始前に採取する
- 感染巣や起因菌の検索のため、画像検査や組織の生検など適切な検査を行う
- 全身状態が不安定で検査が難しい場合は超音波検査などベッドサイドで行える検査が有用
|
抗菌薬治療 |
- 重症敗血症が判明してから1 時間以内に、適切な検体を採取たうえで静脈的な抗菌薬投与を開始
- 初期の経験的治療治療では、感染の原因として疑わしい病原微生物に対して有効な薬剤を1 つあるいはそれ以上選択
- 抗菌薬治療は常に48 時間後、72 時間後に細菌学的検査や臨床データに基づき再評価。より狭域スペクトラムの抗菌薬への変更で抗菌薬耐性出現を防ぎ毒性やコストを減らすことが可能。
- 原因が感染症で無いと判明した場合は抗菌薬療法を直ちに終了して、耐性菌の発生と菌交代による感染症を最小限に抑える。
|
原因のコントロール |
- 全ての患者に対してコントロール可能なフォーカスが無いかどうか評価する。特にドレナージできるような膿瘍や感染巣、デブリドマンを行えるような壊死組織、除去可能な人工物、微生物が侵入しうるような原因の有無についての評価が必要。
- 原因コントロールを試みる場合には、手技の利点と危険性を検討する。侵襲を伴う手技はしばしば合併症を伴う。原因のコントロールを図るような手技は最小限の侵襲で行われるべき。
- 腹腔内膿瘍、消化管穿孔、胆管炎、腸管の虚血など重症敗血症や敗血症性ショックの原因が判明したら、出来るだけ早く原因のコントロールを図る。
- 血管ルートが感染症の原因となっている可能性があれば、速やかに抜き去り他のルートを確保。
|
輸液 |
- 初期輸液において膠質液と晶質液(電解質輸液)の効果に差はない
- 体液量の不足疑いの患者には、30 分間で晶質液500-1000ml あるいは膠質液300-500ml を投与しその反応(血圧や尿量)や耐久性(過剰輸液かどうか)をみながらさらに追加。
|
昇圧剤 |
- 適切な輸液療法を行っても血圧や組織血流が保てない場合は昇圧剤による治療を開始すべきである。輸液療法が進行中で体液量がまだ補正されていない状態であっても、生命の危険をきたすような低血圧があれば一時的に昇圧剤による治療が必要かもしれない。
- 敗血症性ショックでの血圧維持に用いる昇圧剤の第一選択はノルアドレナリンかドパミンである。
- 重症敗血症治療の一環として腎保護を目的としたドパミン少量投与は行うべきでない。
- 昇圧剤を使用しているすべての患者に対しては準備できしだい動脈カテーテルによる管理を行うべきである。
- 適切な輸液療法と高用量の昇圧剤でも反応の乏しいショックに対してバソプレシンの投与を考えてもよい。知見がそろっていないためノルアドレナリンやドパミンにかわるような第一選択としての使用は勧められない。
|
強心剤 |
- 適切な初期輸液にもかかわらず低心拍出量状態の患者に対してドブタミンを使用することで心拍出量の増加を得られる可能性がある。低血圧の場合は昇圧剤と併用すべき。
- 酸素運搬能を高める目的のために心拍出量を通常よりも増加させるべきではない。
|
ステロイド |
- 適切な輸液療法を行っていても血圧維持のために昇圧剤を必要とするような敗血症性ショックの患者に対して、経静脈的なステロイド剤の使用( hydrocortisone 200-300mg/day, 1 日3-4 回に分割or 持続静注, 7 日間)が推奨される。
- 敗血症性ショックの治療におけるステロイドの投与量は1 日当たりhydrocortisone 300mg を超えるべきではない。
- ショックでない場合は敗血症の治療としてステロイドは用いるべきではない。しかしながら、もともと行われていたステロイド治療を維持したり過去のステロイド投与歴に基づいて行うステロイドカバーは禁忌ではない。
-
|
Recombinant activated protein C (rhAPC) |
- 重症患者(APACHEU25 点以上、敗血症による多臓器不全、敗血症性ショック、敗血症によるARDS)で出血に関する絶対禁忌がない患者に対してrhAPC の投与が推奨される。(注意: 日本においてはこの適応での使用は出来ないが、世界的な流れであるためあえて参考として記載する)
|
血液製剤 |
- 初期治療によって組織の血流不全が改善し、かつ虚血性心疾患や急性出血・乳酸アシドーシスといった重大な病態がなければ、赤血球輸血はヘモグロビン7g/dl 未満の場合のみ7-9g/dl を目標に行うべき。
- 重症敗血症に伴う貧血の治療としてエリスロポエチンは推奨されない。
- 出血症状がなく侵襲を伴う手技の予定もない患者に対して凝固系の検査値是正を目的に新鮮凍結血漿を投与するのは勧められない。
- アンチトロンビン製剤大量投与は推奨されない。
- 出血症状の有無に関わらず血小板5000/μl 以下は血小板輸血の適応。血小板5000-30000/μl で重大な出血のリスクがある場合には血小板輸血を考慮。
|
敗血症関連のAcute lung injury(ALI)/Acute respiratory distress syndrome(ARDS)に対する人工換気 |
- ALI/ARDSでは1 回換気量が高いと高プラトー圧につながるため避ける。少なくとも最初の1-2 時間は低1 回換気量(6ml/除脂肪体重kg)とし吸気終末圧を30cmH2O 以下に保つことを目標とする。
- ALI/ARDS 患者に対してプラトー圧と1 回換気量を低く保つためには、それによる高炭酸ガス血症は許容される(Permissive hypercapnia)
- 肺胞の虚脱を防ぐため最低限の呼気終末陽圧(PEEP)をかける。PEEP は適切な酸素化を得るために必要な吸気酸素濃度(FiO2)に基づいて決定する。
- 肺に傷害をおこしうるほどのFiO2 やプラトー圧を要するARDS 患者において、危険のない範囲で腹臥位を試みる施設がある。
- 禁忌がない限り人工呼吸関連肺炎を防ぐためにベッドの頭側を45°まであげ半坐位をとることが望まれる。
- 人工呼吸離脱を検討する際には、以下の5 点を満たす場合に自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial; SBT)を行って離脱が可能か判断。
(a)覚醒している
(b)昇圧剤がなくとも血行動態が安定している
(c)新たに重大な問題となりうるような状況がない
(d)わずかな吸気圧およびPEEP でよい
(e)マスクあるいは鼻カヌラによる酸素投与に安全に置き換えることができる程度のFiO2 となっているである。
- SBT の結果が良好であれば抜管を考える。SBT のかわりにCPAP 5cmH2OによるわずかなプレッシャーサポートあるいはT-piece を使用することも可能。
|
敗血症における鎮静、鎮痛、筋弛緩 |
- 人工呼吸中の患者に鎮静を行う際には、標準化された鎮静スケールによる鎮静の目標が含まれたプロトコールを用意するべきである。
- 間欠的静注による鎮静と持続注射による鎮静のいずれであっても、あらかじめ決めた鎮静目標に向け、必要であれば一日の中で強弱をつけて鎮静を行うことが推奨される。
- 神経筋遮断薬は敗血症患者において神経筋遮断効果が使用中止後も遷延する危険があるため可能な限り避けるべき。
|
血糖コントロール |
- 血糖値は150mg/dl 以下に保つことが求められる。
- 重症敗血症患者においては血糖コントロールとともに腸管を使用しての栄養管理も考慮する。
|
腎のサポート |
- 急性腎不全における持続的血液濾過と間欠的血液透析の効果は同等と考えられている。敗血症で血行動態が不安定な患者における体液量管理には持続的血液濾過の方が管理が容易である。
|
重炭酸療法 |
- 組織循環不全によっておこる乳酸アシドーシス(≧pH7.15)の治療のために重炭酸を投与することは推奨されない。
|
深部静脈血栓症の予防 |
- 深部静脈血栓症予防のため低用量のヘパリンあるいは低分子ヘパリンの投与がなされるべきである。
- ヘパリンの使用が禁忌となる患者に対しては、表在静脈の疾患がなければ予防のための器具(弾性ストッキングあるいは間欠的な圧迫を行う装置)を使用することが推奨される。
- 深部静脈血栓症の既往があるなど非常に高いリスクの患者に対しては薬剤と器具の併用が勧められる。
|
ストレス潰瘍の予防 |
- 全ての患者に対してストレス潰瘍予防が行われるべきである。H2 阻害剤はスクラルファートよりも効果が高い。プロトンポンプ阻害剤はH2 阻害剤との直接の比較がなされておらず、そのため効果の検討ができていない。
|
治療縮小の検討 |
- 予後や治療の目標に関する情報交換を含め、ケアの計画について患者・家族と話し合うべきである。積極的な治療からの撤退については患者の希望を最大限尊重して決定されるべきである。
|