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NIHのしくみ

■NIHとは

NIHにあるNIH全体の模型図

NIH(National Institutes of Health、国立衛生研究所)は日本の厚生労働省に相当するDHHS(Department of Health and Human Services、アメリカ健康福祉省)という官庁に属しますが、機能的には独立しており、20の研究所(下記参照)、情報テクノロジーセンター(http://www.cit.nih.gov/)、クリニカルセンター(http://clinicalcenter.nih.gov/)などからなる巨大な研究機関です。NIH所内でも大学や他の研究所と同じような研究が行われていますが、特徴的なのは、NIH予算の75%はNIH以外での研究の支援に使われると言うことです( これを所外活動という)。ワシントンDC郊外のベセスダにメインのキャンパスがあり、従業員は18,000人以上、そのうち、医師、研究職員が5,000人、所外異国からの留学生3,000人となっています。日本から留学している研究者は350人います。

NIHを構成する研究所、センター(一覧はhttp://www.nih.gov/icd/にあります)

  • National Cancer Institute (NCI)
  • National Eye Institute (NEI)
  • National Heart, Lung and Blood Institute (NHLBI)
  • National Human Genome Research Institute (NHGRI)
  • National Institute on Aging (NIA)
  • National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA)
  • Natiional Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)
  • National Institute on Arthiritis and Musculoskeltal and Skin Diseases (NIIAMS)
  • National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering (NIBIB)
  • National Institute of Child Health and Human Development (NICHD)
  • National Institute of Deafness and Other Communiication Disorder (NIDCD)
  • National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR)
  • National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)
  • National Institute on Drug Abuse (NIDA)
  • National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS)
  • National Institute of General Medical Sciences (NIGMS)
  • National Institute of Mental Health (NIMH)
  • National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)
  • National Institute of Nursing Research (NINR)
  • National Library of Medicine (NLM)
  • Center for Information Technology (CIT formerly DCRT, OIRM, TCB)
  • Center for Scientific Review (CSR)
  • John E. Fogarty International Center
  • National Center for Complementary and Alternative Medicine (NCCAM)
  • National Center on Minority Health and Health Disparities (NCMHD)
  • National Center for Research Resources (NCRR)
  • Warren Grant Magnuson Clinical Center (CC)

■所内活動

NIHでもっとも有名なビルの一つビル10

上にも述べたように、NIHの機能は、所内活動と所外活動の2つに大きく分けることができます。所内(intramural)活動はNIHの年間予算270億ドル($27,066,782,000、2003年)のうち、15%を使っておこなわれています。所内活動はNIH以外の大学などでおこなわれている研究活動とほとんど変わりがありません。唯一の違いは、NIH研究者はNIHグラントの申請ができず、各研究部、課、個人に与えられた予算で研究活動が支えられているということです。なお、所内活動で得られた、新発見、新開発されたものはすべてNIHの財産となります。特許も発見者の名前も形式的なものにとどまり、業績から得られた収益は研究費、旅費などの追加予算に使われます。発見者の手に多額の現金が手渡されることはありません。

■所外活動

所外(extramural)活動はアメリカの国内外でおこなわれている研究活動をNIHが支援するもので、NIH以外の大学、研究機関、医療施設の医師、研究者に「NIIHグラント」「NIIHコントラクト」「協力合意」などの名目で研究費を提供します。

所外活動には大きくわけて2通りあって、そのひとつは「研究コントラクト」で、国家的に重要な課題をNIHが選択し、NIH外の研究機関に委託するものです。もう一つは研究者個人を支える「NIHグラント」で、研究コントラクトと異なり、NIHが研究課題を提示することは少なく(全体の10%程度)、研究者個人が提案したプロジェクトにNIHが研究費を提供するというものです。NIHグラントを使用しておこなった研究から生まれた知的財産はNIIHではなく、グラント取得者または所属大学・研究機関に属します。NIHグラントはグラント取得者に対して与えられるものですから、グラント取得者が大学を移動してもNIHグラントをもっていくことができます。

また、最近になって始まった「協力合意」は、コントラクトとグラントの中間的役割を果たすプログラムで、共通の興味を持ちながら違ったアプローチで研究開発を試みる研究グループを支援するものです。

アメリカの研究者のNIHグラントに対する依存度は極めて高く、研究費、人件費の約50%を支給しています。残りの50%の支出はNSF(National Science Foundation、国立科学財団)、ハワード・ヒューズ財団をはじめとした各種財団、などから出ています。若い研究者はNIHグラントを取得することによって一人前と見なされます。

NIHグラントの詳細については「NIHグラントのしくみ」をご覧下さい。

■NIHクリニカルセンター

NIHクリニカルセンター

NIHクリニカルセンターは新しい医学の研究開発だけを目的とした特殊な病院です。この病院に入院する患者さんは、あくまでもNIHがおこなう臨床研究の協力者ということになります。したがって、医療保険を上回る費用はすべてNIHが負担し、アメリカの他の都市からくる患者の交通費、宿泊費もNIHが負担します。クリニカルセンターの患者ベッド数は550床、敷地面積の40%を占めていますが、これを上回る研究室(60%)が、廊下一つ隔てて隣り合わせているのが特徴となっています。医師は病室と研究室を行き来しながら仕事を進めます。

■NIHを理解するための参考図書

「アメリカの研究費とNIH 」超おすすめ

著者:白楽ロックビル著、出版:共立出版、ISBN:4-320-05446-6、発行年月:1996.8、本体価格: ¥2,000
bk1】【amazon.co.jp

白楽先生がNIHのグラントシステムを調べるためにNIHに滞在したときの記録です。NIHのグラントシステムがよくわかりますので、アメリカに留学する人は絶対に読むことをおすすめします。

<目次>
第1章:やってきましたワシントン -アメリカの生命科学研究とNIH-
第2章:ロビーが強いのだワシントン -科学政策決定の仕組み-
第3章:アメリカ生命科学研究費
第4章:研究グラントの分厚い申請書
第5章:これが例の、あの、うわさのスタディセクションだ -研究グラントの審査-
第6章:科学運営官
第7章:研究の倫理
第8章:パソコン通信で研究費申請
第9章:日本への5つの提言


「切磋琢磨するアメリカの科学者たち」超おすすめ

著者:菅裕明、税込価格:¥ 1,890(本体:¥ 1,800)、出版:共立出版、ISBN:4320056205、発行年月:2004.10【bk1】【amazon.co.jp】【目次

はじめに言ってしまおう。研究留学を志す人、研究留学中の方すべてが読むべき本です。地味で目立たない本で、私も見逃していたのですが、すばらしい本です。

この本は簡単に言ってしまえば、「アメリカのサイエンスの仕組み」をその構成成分である大学教育の仕組み、PhDコースの仕組み、アメリカの教員の仕組み、科学研究費の仕組みのすべてにわたり非常に丁寧に解説した本です。どの構成要素が欠けても「アメリカのサイエンスの仕組み」を理解できません。著者は、アメリカで、PhDコース、ポスドク、テニュアトラックの教員を実際に経験し、各種科学研究費を取得し、審査する立場も経験されており、その記述はきわめて詳細です。テニュアトラックで実際にテニュアをとれなかった研究者はどうするか?なぜ、大学は新しいPIを雇い入れるために、スタートアップ費用として一人の若い研究者に50万ドルもの費用を払うのか?こういったことにきちんと言及している本はありませんでした。

NIHの科学研究費審査の仕組みはアメリカのサイエンスを支える仕組みとして非常に重要です。NIHの科学研究費審査の仕組みについては、「アメリカの研究費とNIH 」【bk1】【amazon.co.jp、「アメリカNIHの生命科学戦略」bk1】【amazon.co.jpでも解説されていますが、本書の著者はNIHの研究費を申請取得する立場、審査する立場の両方を経験されており両方の立場から、NIHの科学研究費審査の講評(採用、不採用だけを知らせるのではなく、建設的な批評)こそが、NIHの科学研究費審査の公正性を保証していると同時に、若いnew PIの教育的効果を持っていると指摘しています。また、著者ご本人がNIHから受け取った審査の講評の実物もNIHの許可を得て掲載されています。

アメリカの科学者達が切磋琢磨するドライビングフォースが何なのかを実に明快に解説した本といえます。逆に言えば、このドライビングフォースがない日本にうわべだけアメリカのシステムを取り入れても効果がないということを指摘しているわけです。

値段もリーズナブルですし、是非みなさん読んでみてください。


「アット・ザ・ヘルム
〜自分のラボをもつ日のために」おすすめ

著者:キャシー・バーカー著、浜口 道成監訳、税込価格: ¥5,040 (本体: ¥4,800)、出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル、ISBN:4-89592-357-6、発行年月:2004.2【bk1】【amazon.co.jp】【目次

「At the Helm : A Laboratory Navigator」おすすめ

Kathy Barker, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN: 0879695838, $45.00
amazon.co.jp】【amazon.com

アメリカで新しく自分のラボを持つようになった新米PI(Principal Investigator)のための本です。
・ スタッフやポスドクをどのように採用するか(具体的な面接の方法にまで言及)
・ PIとして論文を書く際の注意点(First authorが書くのか、それとも、PIが書くのか、Authorshipはどうするか、など)
・ ミーティングやセミナーの運営の仕方
・ ラボ内でのトラブルの解決法(セクシャルハラスメントの問題、ラボ内の恋愛の問題、ラボスタッフの解雇の仕方)
など非常に具体的なアドバイスが多くのっています。また、この本はKathy Barkerという女性のPIが書いていますが、実際には、彼女の友人である多くのPIをインタビューして彼ら/彼女らの意見を掲載しています。この本はアメリカで独立し自分の研究室を持とうという人には必携の本といえましょう。また、実は、アメリカに研究留学をしようとする方にも必携の本といえます。アメリカ人がどのような形でポスドクを採用するのか、アメリカの研究室におけるPIとポスドクの関係はどのようになっているのか、アメリカのPIがどのように考えているかを理解することは、自分の行きたいラボに採用され、PIと良好な関係を保って留学生活を送る上できわめて重要なことと思います。


「アメリカNIHの生命科学戦略
〜全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔〜」

著者:掛札 堅、税込価格: ¥987 (本体: ¥940)、出版:講談社、ISBN:4-06-257441-1、発行年月:2004.4【bk1】【amazon.co.jp】【目次】

著者の掛札堅氏は1960年にCiity of Hope医学センターに留学し、1967年にNIHの主任研究員となられ、その後、長年にわたってNIH で研究を続けられています。その間、日米ガン協力プログラムのアメリカ側事務局長も務められています。本書は、NIHから生まれたノーベル賞級の研究と、その舞台裏を紹介するとともに、NIHグラント制度をはじめとしたNIHの成り立ち、構成などにも言及されています。NIHグラントに焦点をおいた名著として、白楽ロックビル先生の「アメリカの研究費とNIH」bk1】【amazon.co.jpは何回か、紹介してきていますが、本書は、むしろNIHの歴史的な成り立ちや舞台裏に重点が置かれています。設立当時には思いもしないような方向でNIHが発展し、世界最大の医学生物学研究機関になった経緯がよくわかります。特に、著者はNIHと日本の研究交流に関するNIH側の責任者でもあることから、日本学術振興会の海外学振のNIH専用枠、日米癌化学療法のフェロー制度の設立の経緯が明らかになっていて興味深く読めます。なお、現在NIHに研究留学している研究者は350人とのことです。


「Grant Application Writer's Handbook, Forth Edition」

著者:Liane Reif-Lehrer、税込価格: ¥5,482 ($51.95)、出版:Jones & Bartlett Pub、ISBN: 0763716421、発行年月:2004.2【amazon.co.jp】【amazon.com

私は実際に手に取ったわけではないので、推薦者のSEさんのコメントを紹介させて頂きます。

若干情報が古くなっている部分もあるかと思いますが、NIH の Study Section での経験がある著者が申請者、審査員双方からの視点でまとめあげた具体的で情報量豊富なグラント申請指南書です。前半は NIH 及びそのグラントの仕組みについて書かれており、白楽ロックビル氏の「アメリカの研究費とNIH 」と似た内容です。その後には実際グラント申請書を書く際の注意点が申請書類の各項目について事細かくまとめられています。例えば、Abstract については「広く長期的な目標」「具体的な目的」「ヒトの健康との関連」「実験計画と方法論のまとめ」が記述され、一人称や過去の業績が含まれず、規定文字数内で、それ自身が stand-alone であるべきと指摘されています。

後半数百ページが appendix となっており、NIH 及びそのグラントの仕組みについて膨大な情報が詰まっています。特に私が申請書を書く上で有用と思ったのは、申請受理・不受理両方のケースに対する審査員からの評価 (Summary Statement)の具体例が多く列挙されている部分です。特に重要な部分がイタリックになっているあたりは、この本全体に渉る記述の緻密さ几帳面さをよく物語っています。

本の中にも書かれていますが、「NIH グラントを書く上で重要なことは他の全てのグラント申請に通じるものである」と私も思うので多くの研究者の座右の書としてお勧めの一冊です。

更新記録

2004年5月12日:新規掲載

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