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NIHグラントのしくみ

■NIHグラントとは

NIHのしくみで書いたように、NIHの活動のうちNIH外の大学・研究所で研究をおこなう研究者の支援活動(所外活動)はNIHの予算の80%を占める重要な活動です。アメリカの研究者の研究費のうちNIHからの研究費に対する依存度は極めて高く、研究費、人件費の約50%がNIHから支給されています。NIHが出している研究費の大半はグラントと呼ばれるものであることもあり、NIHの研究費を広い意味でNIHグラントと呼ぶことが多いです。NIHグラントは日本の文部科学省の科学研究補助金に対応するものですが、その申請方法、審査方法、使い方には大きな違いがあり、この違いが日本とアメリカの科学研究システムの違いを生み出す根本原因になっています。

■NIH所外研究費の種類

NIHの所外研究費には大きく分けて4つあります。

NIHグラント(Grant)

NIH所外研究費の9割弱を占めるもので、NIH以外の大学・研究所・企業に属する研究者がアイデアを出すものです。NIHグラントの一部にはNIH側がアイデアを出し公募するsolicitationというのもありますが、全体の10%程度に過ぎません。したがって、NIHの研究費の大部分は、研究者がアイデアを出して申請し、獲得するものと考えてよいでしょう。

コントラクト(Contract)

NIH側で立案し、研究の施行をNIH外の研究者に委託するもので、NIHの所外研究費の約10%程度を占めます。乳ガンの部分切除術と広範切除術の治療成績の比較についての多施設臨床試験といったぐあいに、臨床的なテーマが多くなっています。

共同事業(Cooperative Agreement)

グラントとコントラクトの中間的な立場のもので、NIH側が立案し、NIHと研究者が50%ずつ研究に対する責任を持つものです。

研究トレーニング(Research Training)

大学院生の奨学金や研究者に高度な研究技術訓練をおこなう研究費です。

というわけで、NIH所外研究費の大半はNIHグラントであり、所外の研究者がアイデアを出すinvestigator-initiatedなものが中心になっています。

■NIHグラントの種類

NIHグラントにも非常に多くの種類があります。ここでは主だったものについて紹介します。

一般的なNIHグラント

R01(Independent Research Project Grants )は最も一般的なグラントです。上限額は決められていませんが、年間$200,000-$300,000程度が一般的です。R01がとれたら一人前の研究者と考えられます。期間は3年から5年です。期間満了になっても、再度申請を出して認められれば更新が可能です。たとえば、20年以上続いているようなグラントもあったりします。R01は日本の研究費で言えば基盤研究に対応しているものと考えればわかりやすいでしょう。ただ、日本の基盤研究と違って、一人の研究者が複数のR01グラントをとることが可能です。アメリカの研究費申請においてはEffortという概念が導入されていて、各研究費の申請書には、その研究プロジェクトに自分の研究の時間の何%を割り当てるかを書くようになっています。Aというプロジェクトに30%、Bというプロジェクトに30%という具合に割り当てます。合計が100%を超えなければ、同時に複数のプロジェクトを受け持つことができます。

R01は結果を得られる可能性の高い研究に対して与えられるグラントなので、確実性が低いけれども新規性が高いような研究テーマには別のタイプのグラントが用意されています。たとえば、R03(Small Research Grants)は新規で、チャレンジングな研究課題に対するグラントで、年間上限$50,000で1年または2年間となっています。R21(Exploratory and Developmental Grants)新規の研究アイデアにいたいするグラントで、2年間、$275,000を限度としています。

若い研究者向けのグラント

R01の採択率は20%と低いので、実績の少ない若い研究者がR01を取得するのは簡単なことではありません。これから独立しよう、または、あらたに独立した研究者をサポートするグラントがKカテゴリ(Career Development Awards)として用意されています。上限を$75,000として3年から5年サポートします。その間に何とか、R01をとって、一人前になりなさいという訳です。いくつか紹介すると、

  • K02(Independent Scientist Awards):新規にPIとなった研究者のためのグラント。
  • Mentored Clinical Scientist Development Awards (K08):MDをもった研究者が基礎研究を始めるためのグラント。NIHは基礎研究を志す医師を優遇してこのようなグラントを作っている。
  • Mentored Patient-Oriented Research Career Development Awards (K23):臨床研究を始める若い研究者のためのグラントです。
  • Midcareer Investigator Award in Patiient-Oriented Research (K24):臨床家に臨床研究の時間を確保し、臨床研究の指導者となることを目標としたグラントです。

また、Kカテゴリ以外にも初回独立研究グラント(R29。First Grantと呼ばれる。5年間で35万ドル。5年以上の研究経験があると申請できない)などを用意しています。さらに、ポスドクのトレーニングを受けている研究者の給料をサポートするグラントとして、F32というものあります。

ここで紹介したのはNIHグラントのごく一部です。実際にグラントの種類についてはNIHのサイトをご覧ください。

■NIHグラント申請〜審査〜採用の実際

NIHグラントは、申請・審査の仕組みが日本の科研費と大きく異なっていますので、概略を具体的に紹介します。詳しい審査方法についてはhttp://www.csr.nih.gov/REVIEW/peerrev.htmにあります。

申請書は科学評価センター(Center of Scientific Review)に申請書を送ります。申請書は研究の内容に応じて、NIH内の20ある研究所またはセンター(たとえば、ガン研究ならNCI、腎臓の研究ならNIDDKといった具合)に割り当てられ、さらに、適切な審査委員会(スタディセクション)に割り当てられます。どの研究所、どのスタディセクションに割り当てられたかはこの時点で申請者に知らされます。

審査でもっとも重要な役割を担うのがスタディセクションですが、スタディセクションとは300を超えるspecialismに分かれた審査員からなるグループで委託任命された一般研究者によって構成される集団です。通常ひとつのスタディセクションは16-20名のメンバーで構成されており、スタディセクションのメンバーの任期は4年で、年に3回の会議に呼び出され、旅費とわずかな謝礼(1日$200)が払われます。スタディセクションのメンバーは公開されています(http://www.csr.nih.gov/review/irgdesc.asp で見ることが可能)。また、各スタディセクションには1人の科学評価官(SRA=Scientific Review Administrator)がはりついています。SRAは博士号を持つ生命科学研究者上がりの事務官でスタディセクションの運営から申請者のフォローまでこなしています。

スタディセクションのメンバーはスタディセクションが開催される約6週間前に申請書を受け取ります。通常、スタディセクションのメンバーのうち2ないし3名が評価を書面で書くレビュアーに割り当てられます。また、1ないし2名が評価を書面で書かないレビュアー(discussant)に割り当てられます。必要があれば、スタディセクションには、臨時メンバーが追加されたり、外部に意見を求めることもあります。

ここが、日本とは大きく異なる点の一つですが、申請者はスタディセクションが開催されるまでの間に、追加実験の結果や業績など、申請書に追加することができます。

スタディセクションが開催される1週間前に、下位50%の申請書は「足切り」(Streamlined)され、スタディセクションでの審査はおこなわれません。足切りされた申請者は、申請書に対する批評を書面で受け取ります。

スタディセクションはホテルの一室で3日間ほど缶詰になっておこなわれます。まず、各申請書に対して割り当てられたレビュアーが評価を述べ、それに対し討論をおこなって、各審査員が最終的な点数(priority score)をつけます。

スタディセクションが終わると、ただちに最終的な点数が集計され、点数は申請者に知らされます。その6週間後に、詳しい審査結果が申請者に知らされます。

以上のスタディセクションが1次審査であり審査の過程でもっとも重要な部分ですが、さらに、3ないし4ヶ月後に、2次審査がおこなわれます。2次審査では、一次審査の正当性、ゴール達成の可能性、支援金額の妥当性、学術価値の優先度、科学倫理などが問われ最終決定がなされるもので、審査員には、専門分野のエキスパート以外に、学術権威者、経験者、一般社会人が加わります。

最終的に申請が通った研究者には数ヶ月後に研究費が支給されます。通常、申請から研究費の交付までには10ヶ月程度かかります。

■NIHグラントの審査方法の特徴

審査が公開されていて公平である

日本の研究費申請の場合、申請したあとは、通常、合格か不合格かが通知されるだけですが、NIH のグラントの場合、不合格であった場合にも、どこがダメだったかがきちんと示され、そのコメントを元に書き直して再提出することが可能です。それでもなお、審査に不服がある場合には申し立てをすることもできます。

また、この公平な審査をささえているのが、スタディセクションと呼ばれる第 1 線の研究者からなる審査委員会です。スタディセクションのメンバーは公開されています(http://www.csr.nih.gov/review/irgdesc.asp で見ることが可能)。また、現在 NIH が出している科学研究費は CRISP(http://crisp.cit.nih.gov/)にデータベース化され誰でも検索することができます。

当然のことですが、いい加減な申請書では公平な審査はできないので、アメリカの研究費申請書は質、量ともにものすごいボリュームがあります。実験計画はもちろん、詳しい実験方法、予想される結果、予想される結果がでなかった場合の対処方法に加え、ある程度のプレリミナリーデータ(予備実験の結果)が必要とされます。夢物語を書いたのでは通ることは難しく、現実可能な研究であることを論理的に説明しなければなりません。ページ数は 100 ページを超す場合もあります。

生命医学研究をよくわかっているNIHの役人が審査をオーガナイズしている

申請書の作成から審査の過程において非常に重要な役割を果たす NIH の役人は、Sciencefic Review Administrator (SRA)とプログラムディレクター(Program Director)です。各スタディセクションにはSRA1名がはりつき、スタディセクションの運営をおこないます。SRAの多くは博士号をもち、生命医学研究者あがりで、研究についてもよくわかっています。プログラムディレクター(Program Director)は各研究所に所属し、SRAと同じように、博士号をもった生命医学研究者上がりの役人で、常に最新の研究の動向を知っていて、広い視野で、どのような研究が必要かということを考えています。また、研究者の申請研究を内容面から補佐します。申請者は申請書を書く前にプログラムディレクターに相談して、NIHが望む研究をアドバイスしてもらったり、申請書作成の具体的なアドバイスも得ることができます。

■NIH研究費の特徴

単年度ではなく、3 年から 5 年程度の複数年であり、額も大きい

最も一般的な R01 グラント(一般個人研究向け研究費)では 3〜5 年間の期間で、年間$200,000 〜$300,000程度です。NIH グラントはここから人件費やインダイレクトコストが支払われ、実際にはすべてを研究費として使うわけではないので、日本の科学研究費と単純に比較することはできません。しかし、それでも額は多いし、複数年ですから、腰を据えてじっくり研究できるという点で優れています。ちなみに、NIHグラントの平均額は2001年度は$366,594でした。採択率は32%でした。

人件費を出すことができる

研究室のボス(PI=Principal Investigator)は自分の給料のみならず、ポスドクの給料、スタッフの給料を研究費から出していますので、研究費が取れないということはスタッフを雇えないということです。テニュアを持っていない PI であれば、研究費を取れないこと=失業ということになります。そこには実にシビアな世界が待っているのです。そのため、PI は必死になって研究費申請を行っています。

インダイレクトコストが支払われる

NIHグラントを取得すると、申請額の約30-50%に相当する金額が研究施設、大学に追加支給されます。これを間接経費(indirect cost)といって、この費用によって、大学は研究者の使う研究室の場所代、コンピュータ、電力、図書館など共用施設の使用料などがまかなわれます。間接経費が直接経費の何割かは大学、研究機関によって決められていて、ハーバード大学などの有名大学では割合が高くなっています。確か、ハーバード大学は70%、University of Washingtonは50%だったと思います。当然のことながら、大学側は間接経費をより多く集めるため、グラントのとれる有能な研究者を集めたいと思うわけです。

■NIH研究費の優れた特徴

以上が簡単な NIH 研究費の特徴ですが、その中でも、

  • 審査が公開され公平に行われている点
  • 人件費も研究費から出ていて“研究費が取れないこと=研究室がなくなる”ため、必死になって研究費申請を行っている点

が特に優れた特徴だと思います。

■NIHグラントを理解するための参考図書

「アメリカの研究費とNIH 」超おすすめ

著者:白楽ロックビル著、出版:共立出版、ISBN:4-320-05446-6、発行年月:1996.8、本体価格: ¥2,000
bk1】【amazon.co.jp

白楽先生がNIHのグラントシステムを調べるためにNIHに滞在したときの記録です。NIHのグラントシステムがよくわかりますので、アメリカに留学する人は絶対に読むことをおすすめします。

<目次>
第1章:やってきましたワシントン -アメリカの生命科学研究とNIH-
第2章:ロビーが強いのだワシントン -科学政策決定の仕組み-
第3章:アメリカ生命科学研究費
第4章:研究グラントの分厚い申請書
第5章:これが例の、あの、うわさのスタディセクションだ -研究グラントの審査-
第6章:科学運営官
第7章:研究の倫理
第8章:パソコン通信で研究費申請
第9章:日本への5つの提言


「切磋琢磨するアメリカの科学者たち」超おすすめ

著者:菅裕明、税込価格:¥ 1,890(本体:¥ 1,800)、出版:共立出版、ISBN:4320056205、発行年月:2004.10【bk1】【amazon.co.jp】【目次

はじめに言ってしまおう。研究留学を志す人、研究留学中の方すべてが読むべき本です。地味で目立たない本で、私も見逃していたのですが、すばらしい本です。

この本は簡単に言ってしまえば、「アメリカのサイエンスの仕組み」をその構成成分である大学教育の仕組み、PhDコースの仕組み、アメリカの教員の仕組み、科学研究費の仕組みのすべてにわたり非常に丁寧に解説した本です。どの構成要素が欠けても「アメリカのサイエンスの仕組み」を理解できません。著者は、アメリカで、PhDコース、ポスドク、テニュアトラックの教員を実際に経験し、各種科学研究費を取得し、審査する立場も経験されており、その記述はきわめて詳細です。テニュアトラックで実際にテニュアをとれなかった研究者はどうするか?なぜ、大学は新しいPIを雇い入れるために、スタートアップ費用として一人の若い研究者に50万ドルもの費用を払うのか?こういったことにきちんと言及している本はありませんでした。

NIHの科学研究費審査の仕組みはアメリカのサイエンスを支える仕組みとして非常に重要です。NIHの科学研究費審査の仕組みについては、「アメリカの研究費とNIH 」【bk1】【amazon.co.jp、「アメリカNIHの生命科学戦略」bk1】【amazon.co.jpでも解説されていますが、本書の著者はNIHの研究費を申請取得する立場、審査する立場の両方を経験されており両方の立場から、NIHの科学研究費審査の講評(採用、不採用だけを知らせるのではなく、建設的な批評)こそが、NIHの科学研究費審査の公正性を保証していると同時に、若いnew PIの教育的効果を持っていると指摘しています。また、著者ご本人がNIHから受け取った審査の講評の実物もNIHの許可を得て掲載されています。

アメリカの科学者達が切磋琢磨するドライビングフォースが何なのかを実に明快に解説した本といえます。逆に言えば、このドライビングフォースがない日本にうわべだけアメリカのシステムを取り入れても効果がないということを指摘しているわけです。

値段もリーズナブルですし、是非みなさん読んでみてください。


「アット・ザ・ヘルム
〜自分のラボをもつ日のために」おすすめ

著者:キャシー・バーカー著、浜口 道成監訳、税込価格: ¥5,040 (本体: ¥4,800)、出版:メディカル・サイエンス・インターナショナル、ISBN:4-89592-357-6、発行年月:2004.2【bk1】【amazon.co.jp】【目次

「At the Helm : A Laboratory Navigator」おすすめ

Kathy Barker, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN: 0879695838, $45.00
amazon.co.jp】【amazon.com

アメリカで新しく自分のラボを持つようになった新米PI(Principal Investigator)のための本です。
・ スタッフやポスドクをどのように採用するか(具体的な面接の方法にまで言及)
・ PIとして論文を書く際の注意点(First authorが書くのか、それとも、PIが書くのか、Authorshipはどうするか、など)
・ ミーティングやセミナーの運営の仕方
・ ラボ内でのトラブルの解決法(セクシャルハラスメントの問題、ラボ内の恋愛の問題、ラボスタッフの解雇の仕方)
など非常に具体的なアドバイスが多くのっています。また、この本はKathy Barkerという女性のPIが書いていますが、実際には、彼女の友人である多くのPIをインタビューして彼ら/彼女らの意見を掲載しています。この本はアメリカで独立し自分の研究室を持とうという人には必携の本といえましょう。また、実は、アメリカに研究留学をしようとする方にも必携の本といえます。アメリカ人がどのような形でポスドクを採用するのか、アメリカの研究室におけるPIとポスドクの関係はどのようになっているのか、アメリカのPIがどのように考えているかを理解することは、自分の行きたいラボに採用され、PIと良好な関係を保って留学生活を送る上できわめて重要なことと思います。


「アメリカNIHの生命科学戦略
〜全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔〜」

著者:掛札 堅、税込価格: ¥987 (本体: ¥940)、出版:講談社、ISBN:4-06-257441-1、発行年月:2004.4【bk1】【amazon.co.jp】【目次】

著者の掛札堅氏は1960年にCiity of Hope医学センターに留学し、1967年にNIHの主任研究員となられ、その後、長年にわたってNIH で研究を続けられています。その間、日米ガン協力プログラムのアメリカ側事務局長も務められています。本書は、NIHから生まれたノーベル賞級の研究と、その舞台裏を紹介するとともに、NIHグラント制度をはじめとしたNIHの成り立ち、構成などにも言及されています。NIHグラントに焦点をおいた名著として、白楽ロックビル先生の「アメリカの研究費とNIH」bk1】【amazon.co.jpは何回か、紹介してきていますが、本書は、むしろNIHの歴史的な成り立ちや舞台裏に重点が置かれています。設立当時には思いもしないような方向でNIHが発展し、世界最大の医学生物学研究機関になった経緯がよくわかります。特に、著者はNIHと日本の研究交流に関するNIH側の責任者でもあることから、日本学術振興会の海外学振のNIH専用枠、日米癌化学療法のフェロー制度の設立の経緯が明らかになっていて興味深く読めます。なお、現在NIHに研究留学している研究者は350人とのことです。


「Grant Application Writer's Handbook, Forth Edition」

著者:Liane Reif-Lehrer、税込価格: ¥5,482 ($51.95)、出版:Jones & Bartlett Pub、ISBN: 0763716421、発行年月:2004.2【amazon.co.jp】【amazon.com

私は実際に手に取ったわけではないので、推薦者のSEさんのコメントを紹介させて頂きます。

若干情報が古くなっている部分もあるかと思いますが、NIH の Study Section での経験がある著者が申請者、審査員双方からの視点でまとめあげた具体的で情報量豊富なグラント申請指南書です。前半は NIH 及びそのグラントの仕組みについて書かれており、白楽ロックビル氏の「アメリカの研究費とNIH 」と似た内容です。その後には実際グラント申請書を書く際の注意点が申請書類の各項目について事細かくまとめられています。例えば、Abstract については「広く長期的な目標」「具体的な目的」「ヒトの健康との関連」「実験計画と方法論のまとめ」が記述され、一人称や過去の業績が含まれず、規定文字数内で、それ自身が stand-alone であるべきと指摘されています。

後半数百ページが appendix となっており、NIH 及びそのグラントの仕組みについて膨大な情報が詰まっています。特に私が申請書を書く上で有用と思ったのは、申請受理・不受理両方のケースに対する審査員からの評価 (Summary Statement)の具体例が多く列挙されている部分です。特に重要な部分がイタリックになっているあたりは、この本全体に渉る記述の緻密さ几帳面さをよく物語っています。

本の中にも書かれていますが、「NIH グラントを書く上で重要なことは他の全てのグラント申請に通じるものである」と私も思うので多くの研究者の座右の書としてお勧めの一冊です。

更新記録

2004年5月31日:新規掲載

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