home
MENUPREVNEXT

アメリカの健康保険

見知らぬ土地で病気になると非常に心細くなるものです。医療費の高いアメリカでは、何らかの健康保険に加入することは必須です。アメリカの保険は日本の保険とかなり違う部分があり、特に、最近、アメリカの健康保険の大半を占めるようになったマネージドケアのシステムは、好きな病院を自由に受診できる国からやってきた日本人にはなかなか理解しにくいシステムです。

■アメリカの健康保険に加入するか?AIUなどの海外旅行傷害保険に加入するか?

アメリカの健康保険とAIUのような傷害保険型の医療保険を比較してみるとおおまかには(保険によって多少違います)次のような形になるでしょう。

アメリカの健康保険のいいところは、

  • 歯科、出産に伴う費用や予防医学代(予防接種など)もカバーされること。AIUはこれらは免責になっている。
  • 場合によって既往症もカバーされること
  • 医療費の限度額が大きいこと。AIUの保険は600-800万円程度ですから、生きるか死ぬかの病気にかかった場合はカバーし切れないことがある。
  • ネットワーク内の医師にかかる場合には立て替え払いする必要がないこと。AIUの保険では、病院によっては一旦立て替え払いしなければならないこともある。

AIUなどの海外旅行傷害保険のいいところは、

  • co-payment(一部負担金)がないこと。アメリカの健康保険のHMOタイプの場、合一部負担金は安いが、非HMOタイプの場合は意外に一部負担金は高い。
  • 好きな医者にかかれること。大学の健康保険でHMOタイプのものに加入した場合は、受診できる医者にかなり制限があります。
  • アメリカ国外の旅行中の医療費もカバーされること

留学先から給料が出て健康保険を出してくれるのであれば、毎月の保険料は数十ドルのはずですから、その場合にあえてAIUの保険を選択するメリットはほとんどないと思います。逆に、留学先から給料が出ず、健康保険の補助もしてくれないということであれば、アメリカの健康保険は個人でも年間$2000-$3000、家族3人だと$7000程度になりますから、AIUなどの海外旅行傷害保険に加入した方が割安になります。

■アメリカの健康保険の種類

アメリカにも公的健康保険として、高齢者用のMedicare低所得者向けのMedicaidがありますが、多くの健康保険は主に民間企業が行っています。その点が、原則的に公的機関が行っている日本の健康保険制度とは異なり、アメリカの健康保険制度を日本人が理解するのを難しくさせています。

Fee-for-Service Plans(indemnity plan)

Fee-for-Service Plans(出来高払い)のもとでは、患者は自由に医者を選べ、医師側も大きな制限もなく診療行為を行うことができ、それに対して出来高払いで保険がカバーされます。アメリカでも従来は、現在の日本の保険制度と同じ、この出来高払い(Fee-for Service)の保険制度が主流でしたが、現在では定額払い制が主流となっています。しかし、現在でも、Fee-for-Service Plansを提供している保険会社はありますが、保険にかかる費用が非常に高いので、このPlanに加入する人は少なくなっています。

メリット

  • 自由に医師、病院を選べる。
  • 紹介なしで専門医にかかれる。

デメリット

  • 免責額が大きい(年間500-1500ドル)。
  • いったんは自分で医療費を全額支払い、後で保険会社に請求するような面倒な手続きが必要な場合が多い。
  • 通常医療費の80%がカバーされることになっているが、そのカバーされる医療費は保険会社が適当とみなしたものだけに限られる。

Health Maintenance Organizations (HMOs)

Fee-for-Service Plans以外のこれから紹介する3つのプランはマネージドケアと呼ばれ、その中でもHMOは最初に出来た組織であり、マネージドケアの中で最も強力に医療をコントロールするタイプの保険プランです。もっとも医療費を安く上げることができますが、制限が最も多いプランです。医療費を抑制するために、契約している医者のリストの中からかかりつけ医(Primary Care Physician)をあらかじめ決め、かかりつけ医から紹介がないと専門医にはかかれない仕組みになっています。免責金額(deductible)や患者負担額(copayment)は低く抑えることができますが、一方で医療費削減のために保険会社自身の関与が大きすぎ、医学的に十分な治療を受けられない(たとえば、専門医への紹介さえ審査委員会の許可が必要、など)といった批判も出ています。

メリット

  • 免責金額、患者負担額が少ない。
  • 請求は医師が保険会社に直接してくれるので、paper workが不要。
  • 予防医学や患者教育に力を入れている。

デメリット

  • かかりつけ医を決めなければいけない。
  • 契約医師以外の医師にかかることはできない。
  • 専門医受診にはかかりつけ医の紹介が必要。

Preferred Provider Organizations (PPOs)

PPOでは医療機関の選択がHMOに比べ、かなり自由です。ただし、PPOの契約医師にかかる場合でも通常2割程度の自己負担が必要で、1回あたり5-10ドル程度のHMOの患者負担に比べると割高です。また、PPOと契約していない医師にかかることもでき、その場合には契約医師より割高(たとえば3割負担など)の自己負担を払うことになります。

メリット

  • 専門医(ただし契約医師でないといけない)に紹介なしで受診できる。
  • 契約医師以外の医師にかかることができる。

デメリット

  • 自己負担額がHMOに比べて高い。
  • 契約医師以外の医師にかかる場合、一旦自分で医療費を全額払い、あとで保険会社に請求する必要がある。
  • 契約医師以外の医師にかかる際に割高の患者負担が必要。

Point of Service (POS)

POSはHMOとPPOの折衷プランです。基本的にはHMOなので、かかりつけ医を決めなければならず、契約医師にかかる場合はHMO並みの少ない患者負担で済みます。HMOと違うのは、契約していない医師にもかかることができる点で、その場合はPPO並みの患者負担を払うことになります。

メリット

  • 契約医師以外の医師に受診可能。ただし、その場合は患者負担が高い。

デメリット

  • かかりつけ医を決めなければいけない。
  • 契約医師以外の医師にかかりつけ医の紹介なしでかかると、患者負担が高く、自分で払戻金を請求しなければならない。

参考資料:http://www.insure.com/health/basics.html

ちなみに、University of Washingtonの従業員向けの健康保険には、

HMOとして、

  • Aetna US Healthcare Inc.
  • Community Health Plan of Washington
  • Group Health Cooperative of Puget Sound
  • Kaiser Foundation Health Plan of the Northwest
  • PacifiCare of Washington, Inc.
  • Premera HealthPlus
  • RegenceCare

POSとして、

  • Northwest Washington Medical Bureau
  • Options Health Care, Inc.
  • Premera Blue Cross

PPOとして、

  • Uniform Medical Plan

があり、その中から好きなものが選べます。Planによって、毎月の保険料(Premium)は違います。

■どのプランを選べばいいのか?

ポスドク向けにFee-for-Service Planを提供している大学はまずないでしょうから、多くのポスドクはHMO(POSを含む)かPPOの中から選ぶことになります。HMOとPPOのどちらにするかは、

  • コストの問題(毎月の保険料と実際にかかったときにかかる費用)
  • 受診できる医師の制限の問題

を考えないといけません。コストについては次項で詳しく説明することにしますが、基本的にはHMOの方がPPOよりコストを抑えることができます。しかし、私達のように好きな病院に自由に受診できるような国から来た人間にとっては、受診できる病院が制限されるというのは結構ストレスに感じる人も多いようです。したがって、受診できる医者に制限があることを嫌って、PPOに加入する日本人が多いようです。HMOでも提供する保険会社のプランによって受診できる医者は大きく変わります。HMOに加入する場合は、事前に受診できる医師を確認しておかないと、最悪のケース自分の住む場所の近くに受診できる医師がいないということもありえます。また、シアトルには日本語ができる医師や歯科医師が何人かいますが、彼らにかかりたいと思っているなら、あらかじめどのHMOと契約しているのか調べておく必要があります。一方、PPOの場合は、自己負担割合の多い少ないはあるにせよ、基本的にはどの医師にも受診できることになります。

逆に言えば、自分のかかりたいと思う医師がはっきりしているなら、その医師が契約しているHMOに加入すれば、コストを抑えることができます。ただ、注意しなくてはいけないのは、急にかかりつけの医師とHMOの契約が打ち切りになったりすることもあり得るということです。

ちなみに、University of Washingtonのポスドク達は、PPOタイプのプランに加入している人が多いようです。

■保険料(Premium)

UWの場合の月々の保険料を転載します。

2001 Health Plans

Employee

Employee and Spouse

Employee and Children

Full Family

Aetna US Healthcare Inc. (HMO)

$0

$10

$0

$10

Community Health Plan of Washington (HMO)

$0

$10

$0

$10

Group Health Cooperative of Puget Sound (HMO)

$2

$14

$4

$16

Kaiser Foundation Health Plan of the Northwest (HMO)

$11

$32

$19

$40

Northwest Washington Medical Bureau (POS)

$26

$62

$46

$82

Options Health Care, Inc. (POS)

$13

$36

$23

$46

PacifiCare of Washington, Inc. (HMO)

$16

$42

$28

$54

Premera Blue Cross (POS)

$15

$40

$26

$51

Premera HealthPlus (HMO)

$24

$58

$42

$76

RegenceCare (HMO)

$19

$48

$33

$62

Uniform Medical Plan (PPO)

$16

$42

$28

$54

これを見てもおわかりになるように、HMOは高いものから安いものまであって、必ずしもPPOが一番高いわけではありません。

毎月の保険料が月々数十ドルで済んでいるのは、残りの部分を大学が負担してくれているからです。通常、ポスドクで$30,000の給与(stipend)をもらっているとすると、ボスはそれ以外に$7,000程度の福利厚生費(benefit)を大学に支払っています。

もし、大学の補助なしにこれらの保険に自腹で入ろうとすると、本人だけでも年間$3000程度、3人以上の家族だと年間$7000程度かかります。

■保険のカバー率

日本の保険の場合、どんな診療内容でも保険でカバーされるのは一律に2割だったりしますが、アメリカの保険は診療内容や薬などによって細かく分かれています。

以下、UWのHMOとPPOのカバー率についていくつか代表的なものについて取り上げてみます。一般的にはHMOプランの方がPPOプランより自己負担額が少なくて済みます。

 
HMO
PPO
Annual deductible(年間免責額) なし 1人当たり$200、家族当たり$600、処方薬については1人当たり$100、家族当たり$300
Annual out-of-pocket Maximum(年間最大自己負担額) 1人当たり$750、家族当たり$1500 1人当たり$1125、家族当たり$2250
hospital visit(医療機関の受診) $10の自己負担 90%カバー
Ambulance (ground)(救急車) $50の自己負担 80%カバー
Diagnostic testing(検査) 自己負担なし 90%カバー
Emergency room services(救急外来の利用) $50の自己負担 $50プラス医療費の20%の自己負担
Inpatient hospital services(入院費) 1日$100の自己負担(年間最大$300の自己負担) 1日$100の自己負担(年間最大$300の自己負担)
Obsteric and well-newborn care(分娩費および正常児のケア) 自己負担なし 90%カバー
Organ transplants(臓器移植) 自己負担なし 90%カバー
Preventive care(予防医学) 自己負担なし 自己負担なし
Vision (examination)(眼科検査) 24ヶ月に1回は無料 90%カバー
VIsion (hardware)(めがねやコンタクトレンズ代) 24ヶ月に1回は自己負担$50で作成可能 かなり細かく規定されているので省略
Prescription drug(処方薬) formulary(同様の薬効を示すもの薬)が選択可能か、商品名を指定しているかなどで、$10-$30の自己負担 formulary(同様の薬効を示すもの薬)が選択可能か、商品名を指定しているかなどで、10-30%の自己負担

※分かりやすくするため細かい例外規定などはすべて省いてあります。

■用語説明

保険の用語はなかなかわかりにくいです。頻出の用語をまとめておきました。

●Annual Deductible(年間免責額)

●Out-of-pocket maximum(最大自己負担額)

たとえば、Deductibleが年間$100で、Out-of-pocket maximumが$1,000。かかった医療費が、$7,000で、保険のカバー率が80%だったとします。そうすると、免責額$100を引いた$7,000-$100=$6,900の80%がカバーされます。つまり、自己負担額は$1,380になるわけです。しかし、Out-of-Pocket Maximumが$1,000ですから、$1,000を超えた分は100%保険会社がカバーしてくれるので、実際に負担する額は$1,000でいいわけです。

 

●Copayment(copay、患者負担金)

受診1回あたりcopaymentが$10となっていれば、診察内容によらず、窓口で$10支払えば、残りの医療費に関しては医師が保険会社にしてくれます。

■歯科

UWの保険ではMedical Planに加入した人は無料で歯科保険に加入できます。歯科保険にもHMOタイプのものと、PPOタイプのものがあります。保険のカバー率についていくつかピックアップしてみます。

 
HMO
PPO
Annual deductible(年間免責額) なし 1人当たり$50、家族当たり$150
Annual out-of-pocket Maximum(年間最大自己負担額) なし 1人当たり$1500
Endodontics(root canal)(歯内治療、神経除去など) 1本当たり$50の自己負担 ネットワークの歯科医の場合80%カバー、それ以外70%カバー
Oral Surgery(口腔外科、抜歯など) 1本当たり$50の自己負担 ネットワークの歯科医の場合80%カバー、それ以外70%カバー
Preventive(予防)Diagnostic(診断) 自己負担なし ネットワークの歯科医の場合100%カバー、それ以外80%カバー
Crown(クラウン作成) $100の自己負担(ただし、resin base-metal crownのみ) ネットワークの歯科医の場合50%カバー、それ以外40%カバー
Filling(詰め物) $10の自己負担(ただし、アマルガムのみ) ネットワークの歯科医の場合80%カバー、それ以外70%カバー

このほか、Dentures(義歯)やorthodontia(歯列矯正)なども一定割合を保険がカバーしてくれます。

更新記録

●2001年3月23日:新規掲載

home
MENUPREVNEXT