3. 7. 腹膜炎

3. 7. 1. 原発性特発性腹膜炎

ポイント:

  1. 肝硬変などによる腹水貯留患者に多い(その他ネフローゼ有する小児、SLEなど)
  2. 原則的に単一菌による感染である
  3. 発熱のみで腹部症状無いことも多い⇒腹水患者の非特異的発熱時には常に考慮⇒ 疑ってかからないと、見つけにくい
  4. 腹水採取⇒ 培養+細胞数・生化学へ(WBC>250μPで診断がつく)
  5. 腹水培養は血液培養ボトルのほうが陽性率高い(ボトル1本に10cc注入)
  6. 治療開始前に血液培養を2セット必ず採取

起因菌

初期治療

E.coli
Klebsiella
Streptococcus pneumoniae
Proteus
Group A Streptococcus

Ceftriaxone 1g 24時間毎

3. 7. 2. 2次性腹膜炎:市中発症例(腸管穿孔、虫垂炎・憩室穿破等、腹腔内膿瘍含む)

ポイント:

  1. 胆嚢炎穿孔、虫垂炎、憩室炎からの穿孔および消化管の穿孔など
  2. 原則的に腸内細菌による混合菌感染である
  3. 可能な限り腹水などの検体を採取してグラム染色および培養に提出
  4. 治療開始前に血液培養を2セット必ず採取
  5. 抗菌薬云々よりも、適切なドレナージが絶対的に予後を規定する

起因菌

初期治療

E.coli
Klebsiella
Proteus
Enterobacter
Enterococcus
Bacteroides
Clostridium

Ampicillin/sulbactam 1回1.5 g 6時間毎静注
Cefmetazole 1回1g 6時間毎静注

重症例
Ceftriaxone 1g 12時間毎+ clindamycin 600mg 8時間毎

3. 7. 3. 2次性腹膜炎:院内発症例や術後早期の例

ポイント:

  1. 市中発症の感染における起因菌に加えて、抗菌薬耐性傾向の強いP.aeruginosaEnterobacterが問題となる
  2. 術後消化管リーク、消化管の穿孔等が主な原因
  3. 原則的に混合菌感染である
  4. 抗菌薬云々よりも、迅速・適切なドレナージが絶対的に予後を規定する
  5. 可能な限り腹水などの検体を採取してグラム染色および培養に提出
  6. 治療開始前に血液培養を2セット必ず採取
  7. こうした医療施設関連感染の場合問題になる細菌の種類や抗菌薬感受性パターンは各施設で異なる⇒ 自施設における傾向を把握しておくことが重要
  8. 微生物学的検査結果に則って抗菌薬は狭域スペクトラムの薬剤に変更する⇒ いわゆるDe-escalationを積極的に行って耐性菌を呼び込まないようにする)

起因菌

初期治療

E.coli
Klebsiella
Proteus
P. aeruginosa
Acinetobacter baumanii
Serratia marcescens
Citrobacrer
Enterobacter

Enterococcus

Bacteroides
Clostridium

上部消化管の問題の場合:
⇒ 問題となるのは口腔内菌叢、E. coliなどの比較的抗菌薬感受性のグラム陰性桿菌、Enterococcusなどであるため通常は、
Ampicillin/sulbactam 1回1.5 g 6時間毎静注 でよい。

しかし医療機関においては上記菌群以外の菌が検出されることも多いため、サーベイランスを行い自施設の傾向を把握してそのうえで抗菌薬を決定する。

下部消化管の問題の場合:
Piperacillin/tazabactam 1回2.5g 6時間毎静注
Cefoperazone/ sulbactam 2g 12時間毎
Cefepime 1g 8時間毎+ clindamycin 600mg 8時間毎

注意:
特に院内発症例ではP. aeruginosa, MRSAなどの薬剤耐性菌や、Candidaが関与することが多い⇒ 可能な限り検体を採取して微生物学的検査に提出し、その結果によって速やかに抗菌薬の追加や変更を行う!

感染診療の手引き ©2006 Norio Ohmagari.