■留学先の探し方
ポスドクとして留学先を探す場合、以下のような方法があります。
(1)研究室の先輩の行っていた留学先に後任としていく。
留学先の研究室の状況もわかり、渡航時の心配も少ない最も無難な方法です。前任者のアパートを家具付きで引き継いでしまえば生活のセットアップも楽です。
(2)上司などに紹介してもらう。
自分の研究指導者や研究室の先輩が懇意にしている海外の研究者が日本人のフェローが欲しいといって話を持ちかけられたようなケースがこれに当たります。
(3)自分で探す。
「第一線の研究室に留学してNatureを当てたい」とか、「今までとは違う研究分野に飛び込んでみたい」ということになれば、自分で探すことになります。留学先でヒトヤマ当てて、その分野の第一人者になって帰国する人もいます。一方、第一線の研究室というのは研究室の中での競争も激しいことが多く、思うような研究成果があげられなかったり、中には、研究室での競争に疲れて途中で帰国する人もいます。当たれば大きいですが、リスクも大きい方法です。
「留学経験者に聞きました」では留学経験者の方に「どうやって留学先を探しましたか」を聞いていますので、このアンケート結果も参考にしてください。
■留学期間中のサラリーをどうするか
アメリカでのポスドクの給料は年間3万ドル前後が相場のようです(参考:ポスドクの給与水準に関するNIH勧告)家族で渡米される方にとっては、十分な額ではありませんが、もちろんないよりましです。
さて、この給料をどこからもらうかは留学先を探す際の大きな問題です。
多くの場合、
- 留学先から給料を出してもらう。
- 日本の勤務先から給料をもらいながら留学する。
- 日本から海外留学助成金をもらう。
- どこからももらわず、自費で留学する。
のいずれかになると思います。「留学経験者に聞きました」では留学経験者の方に「留学中、給料をどこからもらっていたか」を聞いていますので、このアンケート結果も参考にしてください。
アメリカでのポスドクの給料はボスの研究費(グラント)から出ます。したがって、ボスはグラントをNIHからとれなければポスドクも雇えないわけです。いかに研究予算の多いアメリカと言えど、多くのボスは十分なポスドクを雇うだけのグラントをなかなか確保できないのが現状です。また、人気のある研究室には自分でグラントを用意してくるポスドクも多く、グラントなしでアプライしても断わられることもあります。研究室の先輩の後任として留学するようなケースでは、ボスが給料を出してくれることが多いでしょうが、自分で留学先を探す場合では、有給のポジションを見つけることはなかなか難しいのが現状です。
日本では、様々な財団が研究留学をする人を支援するための海外留学助成金(奨学金、フェローシップグラント)制度を創設しています。額は様々ですが、年間200万円から300万円くらいが多いようです。また、たいていのものが1年のみで、2年のものは日本学術振興会海外特別研究員、ヒューマンフロンティアサイエンスプログラムなど少数です。
2年間の留学予定で2年間の海外留学助成金が出れば問題ないのですが、普通は2、3年の留学予定にも関わらず1年分しか海外留学助成金は出ません。したがって、このような場合は、1年目は日本の海外留学助成金で生活して、2年目からはボスから給料を出してもらうように交渉したり、一緒にグラントを書いて、2年目以降のサラリーを確保することになります。
留学先から給料を出してもらうというのが本来の正しい姿なのかもしれませんが、留学先から給料をもらわずに海外留学助成金をもらって留学する場合にも利点はあります。一つは、1年目は有給でなくてもいいということになれば、それだけ受け入れてくれる留学先は増えます。また、研究テーマに関してはある程度自分の意見を主張しやすいという利点もあります。留学先から給料をもらう場合は、ある特定のグラントから給料が出ているわけですから、そのグラントに沿って研究テーマが決められることが多いと思います。また、給料をもらっているとボスのプレッシャーが強い(もっと働け、など)ということもあるかも知れません。
■留学先を探す手順
自分で留学先を探す場合の手順を説明します。
(1)留学先でどのような研究を行いたいのか
まずは、留学先でどのような研究がしたいのか、さらに突っ込んで、なぜわざわざ貧乏生活(!)をしてまで留学したいのかをじっくり考えることが先決です。留学したい理由は、「第一線の研究室で研究をしたい」、「一度アメリカに住んでみたい」、「はくをつけたい」など、それこそいろいろでしょう。もちろんどんな理由であれ個人の自由ですが、自分のmotivationを自分でわかっていないと、苦しい時を乗り越えられません。
また、留学後の身の振り方まで考え、本当に留学した方がいいのかということももう一度自分に問いかけるべきです。留学後に日本の研究職のポストを得たいのであれば、時に留学はマイナスになることもあり得ます。
(2)留学先の候補を探す
留学先を探す時、多くの場合、論文などの業績を見て、こんな研究をやってみたいというところから始まることがほとんどだと思います。やはり、研究内容が一番重要でしょう。
ただし、留学先というのは論文だけでは判断できません。2〜3年間働くわけですから、研究内容以外にも、ボスの人柄、研究室の雰囲気というのは充実した留学生活を送る上できわめて重要です。また、家族と一緒に留学する人にとっては、留学先の都市の治安や物価なども気になるところでしょう。できれば、現在その研究室に留学している人や、以前留学していたような人を見つけて、なるべく多くの情報を得ることが重要です。「留学経験者に聞きました」では留学経験者の方に「留学先を選ぶに当たって最優先した条件」を聞いていますので、このアンケート結果も参考にしてください。
NatureやScienceなどいくつかの有名Journalには、求人広告が載っています。これらの中から、留学先の候補を探すのも一つの方法です。しかし、気をつけなければいけないのは、Journalに求人広告を出すにはそれなりの理由があるということです。何らかの理由(グラントがとれたけれど研究者が足りない、前任者がやめて後任者がすぐ必要)で特定の研究をする即戦力の研究者を求めています。したがって、研究テーマや渡米時期などについては選択の自由が少ないことが多いと思われます。
また、研究室を探す際には、できる限り研究室の上司などに紹介してもらう方がはるかに受け入れてもらえるチャンスが増えると思います。それが無理なら、留学を希望する研究室のボスと親しい日本の研究者に(その研究者と自分が面識が無くとも)紹介してもらうようお願いします。それも無理なら、学会や講演の場で、むりやり会って、お願いするのがよいでしょう。一度も面識がない人と、一度でも面識のある人では、向こうのボスの安心感がまるで違うでしょうから。
(3)手紙とCVを送る
ある程度、候補が絞れたら手紙を出します。手紙とともに履歴書(CV)を送ります。
有名研究室の教授には毎日のようにapplicationが届くでしょうから、いかに相手の興味をひくかが大事だと思います。ただ、留学させて下さいというのではなく、自分はXXXができるので、あなたの研究のXXXに役に立てるはずだと、できる限りアピールすべきです。また、自分のアイディア、プロジェクトなどもアピールできるとなお良いでしょう。
CVに書くべき項目は
は最低限必要です。自分をよりアピールするために、これまで研究してきたことのアウトラインや、自分が身につけている実験手技などを書いてもいいでしょう。
手紙もしくはCVには、3人程度のReference(推薦人)の連絡先を記します。場合によっては、留学先の教授が推薦人に直接連絡を取って、あなたについての評価を求めることもあります。しかし、日本人の多くの場合は、「推薦書を送る」ように依頼があることが多いようです。
(4)面接(インタビュー)を受ける
アメリカ人がポスドクとして採用される際には、applyをして、インタビューの約束をとりつけ、そのインタビューの結果で採用するかどうか決めるのが一般的です。中には、セミナーをすることを求められたり、ボスだけでなく研究室のfellow全員と面接してその結果で採否を決定するラボもあります。
日本人の場合、わざわざアメリカまでインタビューに行くのは大変なので、多くの場合省略されます。しかし、本当にその研究室に行きたいのであれば、是非インタビューを受けたいということをアピールすべきです。ボスだって、自分からアメリカに呼びつけるのは気が引けるとしても、応募者から来たいというのであればあってもいいかなと思うはずです。また、インタビューだけにアメリカまで行くのは大変ですが、国際学会のあとなどに立ち寄ったりすれば、費用もそれほどかからないはずです。旅費まで負担してくれるボスはいないと思いますが、宿泊費を負担してくれるボスは多いようです。
また、幸運にも手紙のやりとりだけで留学受け入れが決まったとしても、一度は事前にそのラボを訪問することを強くおすすめします。面接はボスが応募者を見る機会であるという側面もありますが、逆に、応募者がボスの人柄、ラボの様子(どのくらいfellowがいるか、ラボの施設はどうか)を見る絶好の機会でもあります。ボスがOKしても、ラボが気に入らなければ、こちらから断りましょう。
「留学経験者に聞きました」では留学経験者の方に「研究室を決める際にインタビューを受けましたか」を聞いていますので、このアンケート結果も参考にしてください。
(5)海外留学助成金に応募する
海外留学助成金は是非とも応募すべきです。確かに、倍率が高いものが多いようですが、当たれば数百万円ですから大きいです。中には、有給でも応募できる海外留学助成金もあります(上原記念生命科学財団のリサーチフェローシップなど)。海外留学助成金の多くは実際に支給される1年から半年前に募集がありますので、早く動き出すことが大切です。ただし、多くの海外留学助成金では応募時に受け入れ先からのOKをもらっていることが前提になっています。ですから、海外留学助成金がもらえることを条件に受け入れをお願いすることは原則的にはできないわけですが、「海外留学助成金に応募している。海外留学助成金がもらえることを前提に受け入れを承諾してほしい」などとお願いすればよいでしょう。
海外留学助成金については別のページで詳しく説明していますので、そちらを見て下さい。
私は、腎臓、高血圧を中心とした病気のメカニズムを分子生物学的な手法を中心として研究してきました。留学先でも、同じ路線で、よりレベルの高い研究がしたいと考えていました。
1997年夏頃から、留学に向けて研究室を探し始めました。私の友人には10以上の施設に片っ端からApplicationを出して、返事のあった施設に直接出向いて、インタビューを受けて、留学先を決めたという強者もいます。私は、小心者なので、ちびちびと一つの施設にappilicationを出し、駄目なら次の施設に出し、という方法でapplicationを出していきました。
一つ目のF研究室はapplicationを出したものの、なしのつぶてで何の返事もありませんでした。次に、同じような研究をしているS研究室とV研究室に同時にapplicationを出しました。V研究室からは丁寧な断りの手紙が来ましたが、S研究室からは受け入れOK(給料付きで)との返事が来ました。その後、S研究室にいる日本人fellowなどからも情報を集めましたが、やはり一度訪問した方がいいということになり、1998年の5月に訪問しました。そこで、ボスと話し合った結果、自分の思ったような研究はすることができないことがわかり、断ることになりました。
4つめのapply先が現在の留学先です。現在の研究室を留学先に決めるに当たっては、以前このラボに留学していた日本人の先生からいろいろな情報を得た上で、実際にラボを訪問してボスと話をして最終決定しました。
最終的に決定した留学先は、少なくとも1年目は給料を出さないと言われてましたので、受け入れについて内諾をもらった1999年6月頃から、いくつかの財団の海外留学助成金にapplyしました。幸い、複数の財団から内定をいただき、その中から2年間(正確に言うと2001年3月まで)助成してくれる民間財団から海外留学助成金をいただくことになりました。
こうして、ようやく本当の意味での留学が決定したわけです。