2008.06.15

医学・バイオ系の学術論文でFigureの投稿規定

秋の刊行を目指して執筆していた原稿も無事、脱稿できましたが、その際、医学・バイオ系の学術論文でFigureの投稿規定がどのようになっているのか、いろいろ調べてみました。なかなかおもしろかったので、一部を紹介しておきたいと思います。

医学・バイオ系の学術誌は、印刷媒体からオンライン版へ焦点が移っている時期であり、Figureに関する論文投稿規定はJournalによって、かなり違います。投稿規定を読まずにFigureを使って、いざ投稿の時に読んだら全部作り直しという可能性もあるので、投稿規定は、はじめに読んでおきましょう。

私が一番驚いたのは、画像のカラーモードについてです。従来、学術論文は印刷物として刊行するため、Figureに入れるカラー写真はCMYK形式で作るように指定されていました。私も、CMYK形式で作っていました。たしかに、今でも、CMYK形式を指定している雑誌が多いのですが、いくつかの雑誌では、あえてRGB形式で作るように指定しています。たとえば、Nature誌やJournal of Biological Chemistry誌など、オンライン版に力を入れている雑誌です。CMYK形式だとRGB形式より表現できる色が狭くなってしまい、特に、蛍光写真の鮮やかさはRGB形式でないと表現が難しいのです。オンライン版は、モニター上で読まれるわけですから、RGB形式の方が望ましいといえます。RGB形式を指定している雑誌は、オンライン版には、著者からのFigureをそのままのせて、印刷板の方は、出版社の方でCMYK形式に変換するようです。

さて、みなさんは、Figure、特に、1枚のパネルにグラフや写真やらを詰め込むようなFigureは、どんなソフトを使って作っているでしょうか?私自身3,4年前まではPowerPointで作っていましたが、その後、Illustratorに乗り換えました。今でもPowerPointで作っている方も多いと思いますが、投稿規定を読むと、「お願いだからPowerPointで作らないでくれ」と書いてある雑誌が多いです。

彼らが何で、PowerPointはアウトだと言っているのか、Journal of Biological Chemistry誌の投稿規定には、こんなことが書いてあります。

PowerPointでのFigureの作成は勧めない。その理由は

  1. 色の再現性に乏しく、スクリーンディスプレイ(RGB)を意図して作られており、印刷で使用するCMYKに対応していない。
  2. 画像の解像度をコントロールする機能がない。
  3. フォント管理機能が貧弱であり、他のコンピュータにファイルを持って行ったときに、フォントが入っていないと勝手に他のフォントで代用されてしまう。

確かに、カラー形式や画像の解像度を投稿規定に合わせて作るとなると、PowerPointでは荷が重いといえます。

あとFigureのファイル形式ですが、.TIFF、.EPSを指定している雑誌が多いですが、.JPGや.PDFを可としているところもあります。例外的なのはNature誌で、編集部がFigureのレイアウトを調整することを前提としているので、Illustrator形式(.ai)での投稿を推奨しています。こんなところも、雑誌のポリシーが出ていておもしろいですね。

2006.09.28

Nature姉妹紙に投稿する前に知っておくべきこと

9月号の実験医学を読んでいたら、小さな記事ですが、「Nature姉妹紙に投稿する前に知っておくべきこと」という興味深い記事が載っていました。

この記事はNature Structual & Molecular Biology(NSMB)のエディターBoyana Konforti博士がハーバード大学医学部で「Publishing in the Nature Sister Journals」と題した講演を聴かれたハーバード大学島岡要氏の記事です。Nature姉妹紙のレビュープロセスの内幕について書かれていました。

詳しいことは実験医学2006年9月号2134-2135ページを読んで頂くとして、興味深い点をいくつか引用致します。

NSMBは月平均約100本の論文を受け取る。受理された論文は少なくとも1人のエディターが必ず通読し、サマリーを書いて編集会議でプレゼンテーションをし、その結果、約25%がレビューアーに送られる。エディター間で意見が分けれた場合は、原則的にレビューアーに送られる。

さらに、Nature姉妹紙に限らない、非常に重要なアドバイスがされています。

カバーレターは重要である。第一に、カバーレターはその論文の重要性をエディターに、よりインフォーマルな形で説明できる機会である。第二に、カバーレターは適切だと思われるレビューアーを示唆できる機会である。必ずしも示唆したレビューアーに送られるわけではないが、エディターに対してもレビューアーのプルを拡大できるよい機会である。第三に、数人程度までなら競争相手などを不適切なレビューアーとして除外することを提案できる。NSMBはできるだけ提案に沿って除外するようにしているらしい。

レビューアーのコメントがフェアーでない時や、数ヶ月以内には達成できない追加実験が要求された場合には(数週間後に)reviseした論文を送り返すときにレターでアピールするのではなく、すぐに(数日以内に)メールでエディターに連絡を取り、お互いどこまで譲歩できるか話し合うことを薦めている。

「カバーレターを最大限に利用すべし」「厳しいreviseの要求がきたら、エディターと相談するのもよい方法である」ということですね。参考になりました。

2006.05.21

H指数

大隅先生のブログH指数のことを知りました。

H指数は物理学のJ. E. Hirschが提唱した指数(PNAS 10.1073/pnas.0507655102)で研究者の業績を算出するひとつの指数です。

H指数の算出は以下のようにおこないます。

自分の論文を被引用回数の順番に並べ、論文の順位が被引用回数を上回った順位をH指数とします。たとえば、ある研究者の論文の被引用回数が以下のようだったとします。

1. 被引用回数150
2. 被引用回数140
3. 被引用回数125
4. 被引用回数110

30. 被引用回数32
31. 被引用回数30

この場合、この研究者のH指数は31ということになります。被引用回数はWeb of Scienceで調べるのが正しいのでしょうが、概算値でよければ、Google Scholarを使ってもいいと思います。私の場合は、Google Scholarだと18、Web of Scienceを使うと20くらいになりました。 私の大学院時代の恩師は58という結果になりました。

H指数は、若い研究者の場合、低めに出ますし、研究分野によって大きく異なるので(生命科学は高い値が出やすい)、絶対的な指標とは言えませんが、 研究者を評価する一つの指標として使われることもあるようです。

Wikipediaによれば、生命科学分野の高H-index研究者は、

S. H. Snyder: h = 191
David Baltimore: h = 160
Robert Gallo: h = 154
Pierre Chambon: h = 153
Bert Vogelstein: h = 151
Salvador Moncada: h = 143
Charles A. Dinarello: h = 138
T. Kishimoto: h = 134
R. Evans: h = 127
A. Ullrich: h = 120

とのことです。

2005.12.28

協同病理

免疫組織用の1次抗体というのは購入して使えば、必ず染まるというわけではなくいろいろ条件を検討してようやく染まるようになったり、場合によっては、メーカーのいうとおりにやってもまったく染まらないものもあって、苦労することもあります。以前から、バイオ研究MegaLink抗体に強い試薬メーカーで紹介している「協同病理」の免疫抗体法のリストのページ。各抗原が、どのような方法を使えばうまく染まるのかというノウハウが写真付きで公開されています。初めて私が見つけたときには、こんなに公開してしまっていいのかしらと思うほどでした。

先日、自社ドメインに移転し、ウェブサイトもリニューアルされた旨、ご連絡頂きました。新しい、URLはhttp://www.kbkb.jp/だそうです。これまでにも今後も、今まで通り情報を公開して頂けるようなので是非参考にしてみて下さい。

2005.08.18

「ゲノム情報はこう活かせ!」

「ゲノム情報はこう活かせ!」

著者:岡崎 康司編集 / 坊農 秀雅編集、税込価格:¥4,410、出版:羊土社、ISBN:4897064856、発行年月:2005.9【bk1】【amazon.co.jp】【目次

ゲノム情報をさまざまに活用して遺伝子機能解析や疾患研究を行う方法について解説した,今までありそうでなかった1冊!


バイオインフォマティクス関連の書籍は「研究者の書棚:バイオインフォマティクス関連書籍」をご覧下さい。

2003.04.11

手抜き実験のすすめ

大学院時代にお世話になった研究室は決してお金がないということはなく、むしろ、研究費は潤沢でしたが、何でも自分でやるというのが方針のラボでした。オリゴヌクレオチドの作成や精製は自分でやりましたし、白黒の写真の現像も自分で暗室にこもっておこなっていました。思い出してみれば、キットを使った経験はほとんどありません。現在の何でもキットのご時世からは信じられない話かも知れませんが、そのときの経験は今でもとても役に立っています。

そして、もうひとつよく言われたことが、オリジナルのプロトコールを忠実に守り、自分で勝手に省略したり変更したりしてはいけないということでした。オリジナルのプロトコールには、行間に書かれたTIPSが隠れていて、問題ないだろうと勝手に変更したり省略したりすると、うまくいかないことが多いと言われました。私も多少遠回りに思えたことでも出来る限り忠実に守っていました。

ただ、その研究室を離れると、ついつい安易な道をえらび、手抜きを覚えていきました。時に痛い目に遭うこともありましたが、手順が省けるというのはスピードの点から言うと重要です。たとえば、大腸菌のトランスフォーメーションでヒートショック後にアンピシリン入りのプレートにまくまでに60分間SOCで大腸菌を培養する。これはアンピシリン耐性遺伝子が発現するまでに小一時間かかるからと教えられましたが、実際には、この60分間の培養が必要ないということがわかったときには毎日の実験が1時間スピードアップしました。また、アガロースゲルを作る際、アガロースゲルが溶けてから型に流し込むまで10分くらい温度が下がるのを待ちますが、2倍の濃度で電子レンジでアガロースを溶かし、溶けたら等量の室温のバッファーを加えれば、すぐに型に流し込めます(固まってしまいそうで怖いのですが、絶対に固まりません)。これも私の実験のスピードアップに大きく貢献しました。

羊土社の新刊「手抜き実験のすすめ」は実験医学に4年間にわたって連載された手抜きテクニックを集めたものです。上に紹介した2つのテクニックも含め、たくさんの手抜きテクニックが紹介されています。紹介されたテクニックの中には、チップやチューブはオートクレーブする必要なしというのものまでありますが、私は今のところオートクレーブはしています。

こういう手抜きテクニックというのは、各研究室秘伝だったりして、なかなか知ることが出来ないもので貴重です。ちなみに、パート1の部分は実験をする上での心構えになっていますが、ちょっと冗長かもしれません。

「手抜き実験のすすめーバイオ研究五輪書」
著者:福井 泰久、岩松 明彦著、本体価格: \2,900、出版:羊土社、ISBN:4-89706-358-2、発行年月:2003.4【bk1】【amazon.co.jp

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