僕の新作「なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?」まもなく発売になります

この半年間で筑波の長田先生と2人で書き上げた腎病理のテキストブックが、いよいよ発売になります。正式発売日は5月20日。月末の日本腎臓学会では、どかんと平積みして売ります。腎臓病を勉強したい人はマストバイの一冊であると言い切れます。タイトルも「なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?」と、かなりとがったタイトルにしました。

どんな本か理解していただくために、僕が書いた「あとがき」をこちらに、転載しますので、お読み下さい。

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「なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?」のあとがき

これまで、腎病理を勉強しようと思ったことは、何度もあった。東京医学社の「腎生検病理アトラス」も読んだし、いくつかの英語で書かれた腎病理の教科書も読んだ。だから、こんな病気が、こんな病理像を呈するというのはある程度理解している。つもりだ。でも、実際の腎生検サンプルを顕微鏡で見て、診断書を書くことは僕にはできない。僕は、尿細管の研究者としてそれなりのキャリアを積んで、免疫組織だとかは、いっぱいやってきたから、読めたっておかしくないはずなんだけど、読めない。結局は、数年、腎病理の先生の元で修行をしないと腎病理の診断書は書けないものだと思っていた。

長田先生と仲良くなったのは、2年前くらいだった。腎病理の本を書きたいのだけれど、出版社はどこかいいかとか、そういうことを聞かれた。僕は、これまで何冊か単著の本を出していたし、医学出版社にはたくさんの知り合いがいたので、いくつかアドバイスをした。でも、長田先生が腎病理の本を出すところまでには至らなかったようである。

僕は、自分が勉強するときには、無理矢理、人に教えるということをしている。「自分の知っていることを教えるより、自分が知らないことを教える」ということをモットーにしている。いやがる学生をつかまえて教えることもあれば、本を書くこともある。でも、さすがに、腎病理に関しては、自分で本を書くというのは難しいので、どうしたものかと思っていた。そんな時、長田先生から、再度相談があった。

そうだ、長田先生との対談という形の本を書いてしまおう

と思ったのだ。僕が、長田先生に教えを乞うという形で、しかも、対談という形をとることで、新しい形のアイデアが実現できることになった。

この本は、二人の共著という形になっているけど、基本的には、長田先生の本である。でも、腎病理学者である長田先生が無意識におこなっている腎病理読影のプロセスを、ロジックとして言語化することに、僕はそれなりの役目を果たせたのではないかと思う。

もちろん対談本を書いたのは初めての経験だったが、2つの意味で刺激的だった。一つは、この本を作り上げる過程で、腎病理を学ぶことができたこと。実際に腎病理の診断書を書くには、それなりにトレーニングしなければならないだろうけど、診断書を読み解く力は、随分ついたんじゃないかと思っている。もう一つは、本を書くことが好きな人間にとって、こういう、ちょっと変わったプロセスで本を書き上げられたことがとても刺激的だった。

この本が出版される前に、何人かに原稿を読んでもらったんだけど、みんなから、「どうやって、この本を書いたんですか」と、聞かれた。この対談本がどのように作られたか、少しだけ、タネ明かしをしておこう。当初は、2人で本当に対談して、それをライターさんに書き起こしてもらうという案もあったけど、それはボツになった。数時間の対談でまとめられるほど、2人の考えも構造化はできていなかったから。やはり、数ヶ月かけて、お互いがキャッチボールをしながら、書くことになった。長田先生は筑波、僕は東京で、そんなに頻繁に会えるわけではない。そこで、Dropboxを使って、リモートで原稿を作り上げていくというプロセスをとることになった。ただ、実際に、ゼロの状態から、いきなり本を書くことは難しく、何回か僕のオフィスに、長田先生に来てもらって、原稿の方向性というかストーリーを決め、そこから、ディテールを書き進めるような形で原稿を書いていった。なかなか合う時間が取れないので、シカゴのアメリカ腎臓学会に出張しているときに、長田先生が宿泊されているホテルの部屋で二人で話し合いながら書いたと言うこともあった。

対談形式は取っているけど、実際には相手のセリフを勝手に作り上げて、互いに書き進めていったので、後になって「僕は、こんなこと言いませんよ」と言って、書き直すみたいな、擬似的な対談で作り上げた。

本を書き始めるときに2つのことを決めた。一つは、多少、学問的に断定することが難しいことであっても、私たちの意見として、はっきりとしたメッセージを伝える、ということ。もう一つは、この本をはじめから、最後まで読んでもらうことで、実際に、腎病理が読めるようになることにこだわるということだった。

今までになかったような、腎病理の本ができあがったと思う。ただ、ほんとに、腎病理が読めるようになるには、この本を読んだ後、一定期間、トレーニングをしなければならないだろう。でも、この本が、そのトレーニング期間を随分短くしてくれるのではないかと思っている。

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