本の紹介『東大病院研修医』

前の2作「東大脳の作り方」「東大医学部–医者はこうして作られる」も興味深く読みましたが、前二作では、「桜蔭の1番、現役で東大理科三類」という著者のイメージが前面に出た印象を受けました。

本書では、彼女の2年間の初期研修(市中病院で1年、東大病院で1年)の様子が描かれています。当初、「精神科か皮膚科」を志望していた彼女が、意外にも外科を選んだ過程が書かれています。エピローグで書かれていた文章が印象的でしたので、引用します。

「余裕のない中でも、素直さと謙虚さを失わず、求められる仕事に真摯に向き合えること。メンタルが荒んでも仕方のない毎日でも、穏やかでフラットな精神状態を保ち、他人に優しく、自分に厳しくいられること。
こう書いていると、まるで聖人君子を目指すような気分になってきますが、そういう人になりたいから外科を選んだんだろうし、それで間違ってなかったと思っています。自分も、つくづく面倒なプライドを持ったものですが、そのストイックさを枯らせたら、自分ではないなあと言う気もします。
ライフワークバランスがもてはやされて久しい世の中ですが、いろんなものと折り合いつけて働くなんて、もっと年を取ってからでも、いくらでもできます。まだ若いうちから、仕事で傷つかない生き方なんて、心底つまらないと思います。努力の対価が点数で付く世界でずっと生きてきて、バランスと能率に縛られていた私を変えたのが、二年間の初期研修でした。
医者の仕事は、はっきり言って非効率とアンバランスの塊です。そこで多少の自己犠牲を厭わず、本気で立ち向かうからこそ、この仕事は尊いんだと思います。どこまでやれるのかは未知数ですが、たとえ自己満足でもいいから、守りには入りたくないです。新たな場所でも自分らしさをついえさせず、毎日を嘘のない笑顔で、働いて行ければと思います。」

もちろん、研修医の労働環境が非人間的であるべきだとは思いませんが、自分のことを振り返ってみれば、365日休みがなく、週のうち半分以上が当直で忙しかった1年目の研修医のときが一番充実して楽しかったです。毎日、たくさんのことを覚え、少しずつ先輩や同僚、まわりの医療職、患者さんの信頼を獲得していく喜びを感じた一年でもありました。初期研修は、どんな病院でやるのでも、どんな診療科でやるので、とことんやってみれば、自分の思ってもいなかった部分が引き出される可能性もあります。

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