ささやかな喜び
なじみのレストランは、この辺では、飛び抜けた存在だ。何を食べてもおいしい。特に、パテ・ド・カンパーニュはおいしい。あえて、難点を指摘するとすれば、カルピスバターが置いてあるので、ついつい、パンを食べてしまい、家族三人、満腹なおなかを抱えてレストランを後にしなければいけないことだ。
今日は、随分気分が良いので、珍しく、強いお酒が飲みたくなった。私は、家ではハードリカーは飲まないことにしているが、いただき物の、響が一本だけ置いてある。響のロックを作って、何を読もうか、本棚をながめる。こういう気分の良いときは、短編小説だ。アルコールを飲みながらでは、長編小説の最後まではたどり着けない。村上春樹の「中国行きのスロウボート」を読むことにした。音楽は、ダイアナ・クラウルの「Live in Paris」。残念ながら、我が家には、立派なステレオはないので、Boseのノイズキャンセリングヘッドフォンを取り出した。BoseのノイズキャンセリングヘッドフォンのデモDVDがダイアナ・クラウルだったせいもあり、ダイアナ・クラウルを聞くときは、Boseのノイズキャンセリングヘッドフォンがベストマッチだ。
私の書斎だけは、我が家の中で唯一、フローリングの上にカーペットが敷いてある。昼間、息子と小雨の中、テニスをやっていたせいか、背中がかなり凝っている。カーペットの上に、グラスをおいて、背中を本棚の木枠に、押し当てて、一人整体をやりながら、短編小説を読み進める。
今週は、仕事でも、久しぶりに、他人を怒鳴りつけたいようなことがあったが。3時間、アタマを冷やして、グッと飲み込んだ。雑事のオンパレードに、やりたい仕事にたどり着けない毎日にストレスもたまるが、なんとか、原稿を書き上げて、編集者に送った。少し、心にゆとりが出来た。
こうやって、ささやかなことに喜びを感じられるのは、年を取ったせいなのだろう。でも、ささやかなことに喜びを見いだせるのは、幸せなことだ。
そんな風に、17回目の結婚記念日を、幸せに過ごした。