本の紹介「Amazonランキングの謎を解く」

私の書いた本「レジデントのための血液透析患者マネジメント」は、なかなかAmazonに入荷せず、一瞬15冊入荷されましたが、その後、再び、在庫切れという状況が続いています。なんか、ビジネスチャンスを失っているような気もしますが、息の長い本になって欲しいので、まぁ、いいかと。

自分の本のAmazonの在庫状況を見ながら、ついつい目がいってしまうのが、Amazonランキング。入荷があったときには、3桁台まで上昇しましたが、その後、在庫切れになったら、1万-3万台あたりをふらふら。

ところで、このAmazonランキングというのはどうやって計算しているのでしょうか?Amazonランキングの更新頻度が1時間に一回だから、当然、1時間当たりの売上冊数によると考えたくなります。1時間に何冊も売れる本はそれでよいのですが、ロングテールビジネスをおこなっているAmazonにおいては、大部分の本が1時間当たりの売上冊数はゼロなはずです。1日で売れた数、1週間で売れた数、1ヶ月で売れた数に、係数をかけて、ランキングをはじき出しているのでしょうか?Amazonが取り扱う、大部分の本は、年に5冊くらいが売れるロングテール本だと言われています。そうすると、Amazonが扱う300万点もの書籍すべてに、それぞれ一意のランキングを付けるには、どういう計算方法を用いているのか?考えると、とても不思議な感じがしてきます。

ちょうど、そんなことを考えていたとき、いつも行く日本橋の丸善に、「Amazonランキングの謎を解く: 確率的な順位付けが教える売上の構造」が平積みされていました。タイトルを見ると、ビジネス書みたいな感じがしたのですが、パラパラと見ると、本格的な確率論の本。さっそく、購入して(私がリアル書店で本を買うのはよほどのことです)、あまりに面白く、あっという間に、読んでしまったので、みなさんにおすすめしたいと思います。

著者の服部哲弥氏は、慶應義塾大学経済学部教授で、確率論、数理物理学の研究者です。Amazonの内部の人間ではないので、実際に、Amazonのランキングがどのように計算されているかについて解説しているわけではありません。Amazonランキングを題材として、数理物理学を展開している本です。つまり、Amazonランキングを計算する数理モデルを構築し、サンプルデータ(いくつかの書籍のAmazonランキングを毎日書き写して採取したもの)を用いて検証するということをやっている本です。

Amazonのランキングの計算方法を推測する上で、著者が採用したモデルは「move-to-front規則」(最後に売れた順に並べる、つまり、注文のたびに1位にジャンプする)というモデルです。たしかに、これは、自分の本のランキングをながめていても起こる現象で、順位が、10万台であろうと、100万台であろうと、1回注文すると、順位が、おおむね1万位台または2万位台に一気に上がります。実際には1位ではありませんが、本研究では、研究対象をロングテールの本にしぼり、1位と1万位が同等と見なせる単純化したモデルを用いているので、モデル内では同じ意味合いと考えて下さい。

そして、もう一つ重要なことは、検証対象を、1週間に1冊以下しか売れないような、Amazonが取り扱っている大多数の本にしぼったことです。よく売れる本(ビッグヒット書籍)と大多数のあまり売れない本(ロングテール書籍)では、Amazonランキングの計算の仕方が異なる可能性があり、著者は、ロングテールのランキング1万位以下の書籍のAmazonランキング計算方法に焦点を当てました。

著者はパレート分布に基づき、非常に単純なランキングの数理モデルを構築しました。そして、サンプルデータのランキングの時間変化のデータを統計的に当てはめて、各種係数を決めています。それによれば、著者の構築した数理モデルはランキングの推移と、非常によく一致しており、ランキングの数理モデルが正しいことを検証しています。

中身の1/3くらいは、かなり本格的な数学なので、私もついて行けないのですが、この本で、Amazonランキングの意味するものが 、明確になりました。

1万位以下のAmazonランキングでは、そのランキングが意味するものは最後に売れてからの経過時間と考えるとよいようです。

順位 最後に売れてから
70万位 72日
60万位 41日
50万位 26日
40万位 16日
30万位 9日
20万位 4.5日
10万位 36時間
5万位 13時間
4万位 9時間
3万位 6時間

1万位以内(上位)のAmazonランキングは、実際の売れ行きとイメージが近いと理解できます。

順位 平均注文時間間隔
10位 5秒/冊
100位 1.5分/冊
1000位 30分/冊
1万位 7.5時間/冊

上記、テーブルは、いずれも「Amazonランキングの謎を解く」服部哲弥著から引用。

さらに、この本がすばらしいところは、ランキング計算モデルを、実際のサンプルデータに当てはめて、係数を決めた結果、実は、「Amazonはロングテールビジネスではない」ということを明らかにしたということです。つまり、ほとんど売れない本は、コストがかからないと言っても、Amazonの収益にはほとんど寄与しておらず、実際には、Amazonは「よく売れる本」で収益を得ていると言うことです。すでに、「Amazonはロングテールビジネスではない」というのは、私の書いた本のような、たいしして売れない本が、ずっと在庫されないままになっているという事実とも一致しているのかもしれません。詳しくは、本書を読んで下さい。

本格的な確率論で、ついて行けていない部分もあります(そう言う人には、読み飛ばせる工夫がしてありますのでご安心下さい)が、かなりおもしろい本です。久方ぶりに、楽しく数学と接することができました。おすすめの一冊です。

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