このサイトも、研究留学とかいう名前が付いているので、たまには、こんな話題にも触れておこう。
読売新聞のこの記事である。
共同研究などのため海外に長期(31日以上)にわたって派遣される国内の研究者が、ピーク時の半分以下に減少していることが7日、文部科学省の調査でわかった。
今年のノーベル化学賞受賞が決まった日本人2博士は、海外での切磋琢磨が業績の原動力になったとされる。現在の日本人研究者の内向き志向が改めて浮き彫りになった。
調査結果によると、国公私立大などの研究機関から昨年度、教員など所属機関との雇用関係を維持したまま海外に派遣された研究者は3739人。ピーク時の2000年度は7674人だった。
文科省は派遣研究者の増加を目指して支援策を拡充しているが、減少傾向が続いている。担当者は「日本の研究環境が整い、あえて海外に挑戦する研究者が少なくなっている面もあるのではないか」と話す。
誰が言っているのか知らないが、あきらかな分析間違いである。
私も、「研究留学ネット」を初めて10年を超えるが、その間、研究留学する人がじりじり減っていることはよくわかっていた。自分の印象も10年間で半分以下というもので、文科省の調査と一致している。しかし、減っている理由として、「日本の研究環境が整い、あえて海外に挑戦する研究者が少なくなっているから」というのは分析が間違っている。
ここでは、海外へ研究留学する研究者が行く人数が圧倒的に多いアメリカの場合を考える。
1990年代に、アメリカに研究留学する研究者の半分以上がMD研究者であったと思われる。ここでは、MD研究者の研究留学のよしあしには議論しない。MD研究者の中でも、国立大学の教員には、休職制度というものがあり、2-3年間の留学中の給料のサポートもあれば、日本に帰ってきてからのポジションも確保されているという大変恵まれた制度であった。しかし、2000年前後に、国立大学が独法化の流れで、休職制度を利用して留学することは難しくなった。
休職制度が利用できなくても、MD研究留学者の場合、日本に帰国しても職にあぶれることは基本的にはない。アカデミアに残れなくても、医師として働くことはできる。しかし、MDにとって、留学という箔をつけるより、専門医という箔をつけることを望む人が増え、研究留学を指向する人が減った。これは、臨床研修医制度の改革の影響が大きい。
一方、非MDの人にとっては、ポスドク1万人計画のおかげで、有期のポジションが増えた反面、常勤のポジションの競争が激烈になり、海外に渡って長期的に業績をあげて、よいポジションを狙うより、日本に残ってコネを大切にした方がよいと判断する人が増えた。
2001年のテロ事件の影響で、アメリカの治安が低下したが、それを嫌って、一時的にアメリカを敬遠する人たちが増えた。 911と関連し、ブッシュ政権は、研究費を減らし、国防費に回したため、アメリカの多くの研究室の経済状況が悪くなり、ポスドクで雇用できる枠が減ったことも、日本からの留学者にはマイナスに働いた。
この4つが研究者の留学指向が減った理由だと私は思っている。