本の紹介「プレゼンテーション Zen」
「プレゼンテーション Zen」
著者:Garr Reynolds、出版社:ピアソンエデュケーション (2009-09-07)、ASIN:4894713284【amazon.co.jp】
実は、この本、2年前に購入して、イマイチと思って、捨ててしまった。「プレゼンテーションZenデザイン」が出たので、もう一度買い直して読んでいる。今回読んだら、むちゃくちゃおもしろい。ちょっと、力をこめてレビューを書く。
なぜ、1回目と2回目の印象がこんなに違ったかというと、答えは明白である。第1回目の時、私は、プレゼンテーションの技法を求めて、本書を買い求めたわけだが、本書はプレゼンテーションのメソッドについては、ほとんど触れていない。そして、その当時は、まだ、私が、この本の提唱するプレゼンテーションを受け入れられるだけの準備が出来ていなかったということであろう。
本書は、禅についての本ではない。本書はコミュニケーションの本であり、プレゼンテーションをいつもと少し違った、現代に即した視点から眺めようとする本である。この本のメインテーマは「今日のPowerPointプレゼンテーションの常識に意義を唱え、プレゼンテーションのデザインや実施について、発想の転換をうながすこと」である。
さて、「今日のPowerPointプレゼンテーションの常識」とはなんなのか?
著者は、PowerPointの間違った使い方として、もっとも多いもの、もっとも深刻なものとして、PowerPointを文書作成ソフトウェアのようにして使っているということを指摘している。本来、Wordにまかせるべき、文章作成をPowerPointでやってしまっている。そこで、おこる一番の弊害は、プレゼンテーションを考え始める一番初めの段階から、いきなり、PowerPointで、箇条書きで作り始めるというものである。
本来、プレゼンテーションの作製というのは、創造的なものであり、プレゼンテーションの作製のファーストステップは、むしろ、コンピュータの前から離れて、紙と鉛筆で、一人静かな時間の中で始めることをすすめている。
PowerPointはメソッドではない。それはツールであり、適切なメソッドで使用すれば功を奏し、不適切なメソッドで使用すれば役に立たなくなるものである。
ついにPowerPointを捨てる日が来たのか?そうとは言い難い。しかし、PowerPointとKeynoteの両方で使われているありふれた箇条書きテンプレートについては、とっくに捨て去ってもいい頃である。さらには、プレゼンターが話しているのと同じ情報を文字という形でスライドに映し出すことは、通常は役には立たず、むしろメッセージの妨げになるということにも、そろそろ気づくべきだ。
口頭による優れたプレゼンテーションと、うまくまとめられた文書は全くの別物である。PowerPointを文書作成ソフトウェアとして使って出来上がったプレゼンテーションは、伝えたいメッセージがはっきりとしない、あれもこれもといった焦点のぼけたプレゼンテーションになってしまう。
著者は、決して、PowerPointなしのプレゼンテーションをすすめているわけではない。PowerPointのスライド枚数も、少ないに超したことはないが、ケースバイケースで多くても構わないといっている。大切なことは、いかに、伝えたいメッセージを伝えるかということに集中するかである。
最近、黒川清先生が、PowerPointを一切使わないプレゼンテーションをされたのを観た。では、私がPowerPointを使わないプレゼンテーションは可能だろうか。あっ、ちなみに、私はスライドウェアとして、Keynoteを使っているので、PowerPointは使っていないのだった。そういう、ことではなく、私はスライドなしで、プレゼンテーションができるだろうか。
それに対しての著者の薦めは、詳細な配付資料を作成し、スライドを出来るだけシンプルにするということである。ただし、配付資料として、スライドを印刷したものを配ってはいけない。スライドは、そもそもハンドアウトに適さないし、ハンドアウトに適したPowerPointはそもそもプレゼンテーションとして体をなしていないのである。詳細な配付資料を作成し、スライドを出来るだけシンプルにする、自分の伝えたいメッセージを伝えることに集中することを勧めている。
スピーチは出来るだけ短く、しかも効果的に物語を伝えられるものにする。そして、プレゼンテーションの準備をした後、内容を見直し、徹底的な編集作業を行うこと。自分の論点やスピーチの目的に書かせない要素でなければコンテンツから外してしまう。情け容赦は無用である。映画のシーンでも、監督は、そのシーンが技術的な見せ場だったり、あるいは撮影が非常に大変だったりしたために、どうしてもカットする気になれないことがある。それと同じで、そのような発表者の思い入れで、聴衆にとっては、不要なスライドを削ることができない。
まずは、プレゼンテーションに際して、詳細な配付資料を配ろうと思う。そして、スライドの枚数を半分にしてみよう。きっと何かが変わるはずである。
スライドのデザインについては、第6章、第7章で述べられているが、相当にレベルが高いもので、すぐに取り入れるのは難しい。一方、プレゼンテーションの現場でのアドバイスは、もう少し具体的だ。プレゼンテーションの現場では、演台に立たないこと、リモコンを使う事(マウス付きより最低限の、進む、戻る、切るだけの方がよい)、照明は消さないこと。
第8章の「完全にその場に集中すること」は、おそらく、プレゼンテーションZENのきわめて重要な章であろうが、残念ながら、現在の私には、それを受け止める準備が出来ていないようである。今度は捨てないで、本書を本棚に置いて、8章が私の心に響く日が来るのをまとう。
この本の考え方はすべての人に読むことを勧めたいが、読む人の心の状態によっては、この本が主張していることは響かないかもしれない。でも、この本を理解できる日が来るまで、待つことをおすすめする。特に、ある程度経験がある方たちのプレゼンテーションを見つめ直す格好の材料になると思う。