本の紹介「理系大学院留学」
「理系大学院留学―アメリカで実現する研究者への道 (留学応援シリーズ)」
著者:カガクシャ・ネット、出版社:アルク (2010-03-31)、ASIN:4757418566【amazon.co.jp】
カガクシャ・ネットは、海外の理系大学院を受けた若い研究者のコミュニティです。当初は、メーリングリストを活動の中心としていましたが、2007年からは、メールマガジン「海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継」を発行しています。10年にもわたって、地道に活動を続けてこられたのは、うまく協調作業が進んできたおかげで、一人の人に負担がかかりすぎなかったと言うことなのでしょう。代表の杉井さんとは、10年間にわたって、ときおりお会いして情報交換してきました。
彼らの活動の集大成とも言える成果が本書です。
カガクシャ・ネットのそもそもの結成の経緯は、以前、私が運営していた研究留学ネットMLであったのではないかと推察しています。したがって、これまで、彼らの活動を見てきた私が、彼らが成し遂げた(というにふさわしい本だと思う)成果である本書を、献本いただきながら、2ヶ月も放置していたのは怠慢としか言いようがありません。申し訳ありません。
アメリカでポスドク留学する人の数は、明らかに減っています。それでも、私が留学した当時は、結構な数がいました。たとえば、私の大学の同級生100人のうち10人くらいが同時期に留学していました。911という治安の問題もあったと思いますが、もっと大きな問題として、日本でのポスドクが無計画に量産された割にテニュアポジションが増えなかったというポスドク問題、ポスドク留学のかなり多くの人数を占める医師の留学希望が減っていることなどにより、おそらく、私が留学していた当時の半分以下になっているのではないかと思われます。ただ、このようなポスドク留学の情報は、身近に経験者を捜すことが難しくない上に、インターネットの発達により、以前に比べて情報が得やすくなったと思われます。
一方で、海外の大学院留学となると、今でも、情報がかなり少ない状況です。海外の大学院留学は実質的な授業料がかからないことや、専攻分野の変更に寛容であることなど、重要な部分の情報でさえほとんど行き渡っていません。
本書では、海外の大学院留学を考える人にとって、プラクティカルな情報を与えてくれる唯一の書であるといえます。また、カガクシャ・ネットの人脈によって、豊富な体験談が集められている点も貴重です。
カガクシャ・ネットでは、柿内賢信記念賞というグラントを獲得し、世界各地で活躍する超一流の研究者のインタビューを敢行しました。小柴昌俊、石井裕、浅田春比古といったそうそうたる面々です。そのインタビューというか、先輩研究者からの若き科学者へのエールもPart IIIにまとめられています。
ということで、海外の大学院留学をちょっとでも考えている人は、必須の本です。というか、将来、世界的なレベルで研究をしたい学部生は、この本を買って、海外大学院留学というキャリアパスがあることを知っておく必要があると思います。