だいぶ時間があいてしまいましたが、医家向け電脳道具箱第四回分を掲載します。
■RSS~ネットサーフィンはもう古い
RSSという言葉を聞いたこともあるだろうか。RSSとは、更新情報を利用者に通知するための仕組みである。RSSには、RSS1.0、RSS2.0、Atomといった異なるバージョンがあり、やや混乱している側面もあるが、blogが流行するとともに、RSSは広く使われるようになってきている。学術雑誌でもNature、Science、New England Journal of Medicineをはじめ、RSSによって最新記事の要約の配信をしているジャーナルが出てきている。
RSSの実体は、更新情報の概要をまとめたXMLファイルであり、サイト運営者は、このファイルをwebサイトにおき、利用者はRSSリーダーを用いてWebサイトの更新情報を取得できる。RSSリーダーは定期的に登録したRSSフィードを見に行ってRSS情報を取得する。利用者はRSSリーダーを見ることによって、複数サイトのうち更新のあったサイトの更新情報の要約を一覧として見ることができる。昔は自分のお気に入りのブックマークを作り、ブックマークを次々とクリックしてネットサーフィンをするというのが一般的だったが、現在はRSSリーダーを使うことでネットサーフィンしないで複数のサイトの新着情報を一度にチェックできるようになった。
RSSの最大のメリットはこのように新着情報をまとめて一覧できるということであるが、その他にもいくつかのメリットがある。webサイトの新着情報をメールで知らせるというサービスに比べると、新着情報をRSSで受け取ることは、たくさんのスパムメールに悩まされていて、少しでも受け取るメールを減らしたいという受け手側のメリットになる。また、発信者のメリットとしては、メールアドレスのような個人情報を管理しなくてもよいという点がある。自分でwebサイトを運営するような場合には、RSSから取得した新着情報を自分のwebサイトに貼り付けるという利用の仕方もできる。農林水産研究情報センター(http://ss.cc.affrc.go.jp/ric/home.html)のサイトなどはそのいい例であろう。
RSSを利用するにはRSSリーダーが必要である。RSSリーダーには専用のソフトウェアもあるが、最近のウェブブラウザ(Firefox、Internet Explorer 7、Safariなど)はRSS機能を持っており、これらのソフトを使う人が多いようである。また、RSSリーダーの機能をWebサービスとして提供しているサイト(Bloglines、Yahoo!RSSリーダー、Google Reader、はてなRSS、など)もあり、こちらは、私のように職場と自宅で複数のコンピュータを使っているような場合は便利である。私はもっぱらBloglinesを愛用している。
■eTOCアラートサービスで新着雑誌を見逃さない
私は大学院生の頃図書館の新着雑誌の書架を眺めることを日課にしていたが、いまではeTOC (electoric Table of Contents)アラートサービスのおかげで、図書館に足を運ばないで済むようになった。eTOCアラートサービスとは文字通り「電子目次」のアラートサービスであり、登録したジャーナルの最新刊の目次がメールで送られてくるというサービスである。毎回目を通しておきたいジャーナルのeTOCアラートサービスに登録しておけば、そのジャーナルの新しい号が発刊されると、目次がメールで送られてくる。その「電子目次」にはタイトルや著者名のほか、抄録やフルテキストへのリンクが張ってあるので、気になる論文があれば、ワンクリックでフルテキストを読むことができる(各施設のオンラインジャーナルとの契約状況による)。ジャーナルが実際に図書館に郵送されるのを待つ必要もないし、見逃すこともなく、最新号の目次が手に入る。オンラインジャーナルがなかった時代には、海外のジャーナルが発行されてから図書館に届くまでには数ヶ月かかるといったこともあったが、オンラインジャーナルの普及のおかげで、海外との情報の格差はなくなり、ETOCアラートサービスのおかげで、最新情報をタイムリーに取得できるようになった。eTOCアラートサービスを利用するには、各ジャーナルのwebサイトに行き、eTOCサービスを見つけ、配送して欲しいメールアドレスを登録するだけである(図1)。必ずしもすべてのジャーナルがeTOCサービスを提供しているわけではないが、一流紙と呼ばれるジャーナルはほとんど提供している。
■Biomailで見逃しゼロに
お気に入りのジャーナルの目次だけチェックしていても、まったく関係のないジャーナルに自分の研究に関連した論文が出ることもある。こういった見逃しをなくすためには、定期的に特定のキーワードでPubMedの検索をおこなえばいいわけだが、それを自動で定期的におこない、見つかった場合にはメールで知らせてくれるサービスがある。このようなサービスを比較的早くからおこなっていたのは、Biomail(http://www.biomail.org/)(図2)である。Biomailでは、PubMedで検索したい検索式を最大20個登録することができ、定期的に(週に1回、週に2回、月に1回、月に2回から選べる)検索をかけて検索結果をメールで知らせてくれる。
■PubMedのアラートサービスが始まった
2005年になって、PubMedを運営している本家本元のNCBIがBiomailと同様のサービスを始めた。My NCBI(図3)はPubMedの検索式が保存できるサービスであるが、その検索結果を定期的にメールで送信するサービス(Automatic e-mail updates)が開始されたのだ。Automatic e-mail updatesサービスがBiomailと比べて優れているのは、
・検索頻度が1日に1回から月に1回まで細かく設定できる。
・文献データだけでなく、NCBIデータベースのすべてのデータが対象になる。
・検索語の数の上限が100(Biomailは20)。
・本家がおこなっているという安心感がある。
といった点である。一方、Biomailと比べて劣っているのは、
・検索語の数だけメールがくるので鬱陶しい。
という点である。私は、この点で現在はBiomailの方を愛用している。1週間に1度くらい送られてくるくらいの頻度が適度であり、毎日送られてきても見るのがおっくうになる。
Automatic e-mail updatesを利用するためには、まず、My NCBIのアカウントを作る必要がある。PubMedのトップ頁の右上の「Register」をクリックしてアカウントを作っておく。検索したときに、その検索式を保存したいと思ったら、「Save Search」をクリックする。そうすると、Automatic e-mail updatesサービス(同じ検索式にマッチする論文が出てきたときにお知らせメールが届く)を希望するかどうか聞かれる。あとは、どのくらいの頻度でメール配信を希望するか?メールのフォーマットを何にするか?新しい論文がないときにはメールをするか?などのオプションを選ぶことになる。
2006年からは、さらにPubMedの検索をRSSとして受診することができるようになった。PubMedで検索したときに、そのキーワードでRSS配信を受け取りたいと思ったら、「Send to」とあるプルダウンリストから「RSS feed」を選ぶ(図4)。そして、検索に対して名前を付けたり、検索結果数のオプションをセットして、「Create feed」ボタンをクリックする。 そうすると、「XML」と書かれたアイコンが登場し、これが、RSSフィードのURLである。あとは、自分のRSSリーダーに登録すればよい。こうすると、メールによるアラートではなく、RSSリーダーで最新論文をチェックできるのである。
■手に入れたフルテキストPDFはどうするか?
皆さんは、ダウンロードしたフルテキストPDFファイルはどのようにしているだろうか?本来はディスプレイ上でフルテキストを読めば、紙の節約になるのだが、私はディスプレイ上で論文を読むというのが苦手なので、ほとんどプリントアウトして読んでいる。プリントアウトした論文はファイリングして保存するというアナログな整理方法をいまだ続けている。しかし、PDFファイルをディスプレイの上だけで読むのであれば、論文のコピーをしまう場所も必要なくなり、PDFファイルのままコンピュータ上に保存しておけばよい。ハードディスクのPDFファイルを管理するのに適した文献管理ソフトウェアがいくつかある。最も有名なソフトはEndNote(トムソン社)であろう。EndNoteでは自分の集めたオリジナルの文献データベースを作ることができ、それぞれの文献データに、そのpdfファイルをリンクさせることができる。また、MacではiTunesライクなインターフェースを持ったソフトウェアにiPapers(フリーウェア、http://homepage.mac.com/toshihiro_aoyama/iPapers/)(図5)やPapers(シェアウェア、http://mekentosj.com/papers/)があり、文献管理に特化するならこちらの方がEndNoteより使いやすい。
以上、医学のあゆみ221巻3号「最新論文を見逃さないための小道具達」より許可を得て転載
その他の回は医家向け電脳道具箱の一覧をごらん下さい。