「世界屠畜紀行」は久しぶりに出会ったすごい一冊

「世界屠畜紀行」

著者:内沢 旬子著、税込価格:\2,310、出版:解放出版社、ISBN:4759251332、発行年月:2007.2【bk1】【amazon.co.jp

「屠畜」とは、家畜を殺して食肉とする行為を指す言葉である。より一般的な用語は「屠殺」は、本書では使わず「屠蓄」という用語を用いている。

屠畜についての書籍・資料はきわめて少ない。それは、屠畜という行為が残酷であり、グロテスクであるということもあるが、日本を含め一部の国では屠畜にかかわる人々への差別の問題があるということも大きな原因であろう。しかし、食卓で肉を食べるのには誰かが家畜を殺し、さばくことが必要である。家畜がどのようにして食肉に変わるのか、その部分に対する強い興味からこのルポタージュは始まっている。一般の人にはまったく目に触れない「屠蓄」の作業について、著者本人の手による秀逸なイラストをもとに紹介している。イスラム圏における屠蓄、韓国での犬肉、バリ島での豚の丸焼き、エジプトでのラクダの屠蓄、モンゴルでの羊の屠蓄、東京芝浦屠場での豚・牛の屠蓄、アメリカでの機械化された屠蓄と、屠蓄を求めての著者の旅は世界各国へと広がる。屠蓄の方法にとどまらず、宗教が食のために動物を殺すことに対してどのようなexcuseを与えているのか、屠蓄に関わる人々がどうして差別を受けているのか、とテーマも広がっている。屠蓄についてつっこんでいけば、このような難しい問題に突き当たるのだが、あっけらかんとした内澤氏の強い好奇心が屠蓄という重たいテーマのルポタージュを実に軽妙に仕上げている。著者の前作「東方見便録」は、各国の「トイレ」事情のルポタージュであり、こちらも軽妙ながら、においが漂ってくるような出来であるという。

宗教、食文化、民俗学、差別問題がぎっしり詰まった1冊なのだが、読み出したら止まらなかった。久しぶりにすごい一冊に出会った。


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