「大学病院革命」
「大学病院革命」
著者:黒川 清著、税込価格:\1,365、出版:日経BP社、ISBN:482224556X、発行年月:2007.1【bk1】【amazon.co.jp】【目次】
黒川先生は日本でもっとも有名な腎臓内科医であるが、それよりも有名な顔は、元東京大学第一内科教授、そして昨年まで務めた学術会議議長という顔である。また、現在の初期臨床研修制度の仕掛け人も黒川先生である。医学教育を政治的な側面から動かすことができるほとんど唯一の人であると言える。
現在の臨床研修医制度はさまざまなゆがみや問題も生んだが、とにかく、「混ざり合う」ということを目指した彼の目的はかなりの部分達成されたといえる。長年、誰もが手をつけられなかった医局制度の崩壊に引き金を引いたと言うことは、長い目で見れば評価されるべきであろう。しかし、この臨床研修制度改革も、今回の初期研修医プログラムの創設はあくまでも第一歩であり、彼の次なる目標は大学医学部のメディカルスクール化である。大学入試時点の偏差値でのみ、医師という進路が決まるという日本の医学部制度の問題点を解消するために、アメリカと同様に、4年間学部でリベラルアーツを学んだ後、4年間のメディカルスクールで医学部を学び、医師になるというシステムの導入を考えている。
医学教育の改革は、現在の「医療崩壊へまっしぐら」という状況を打開するための最も有効な解決策であることは確かである。しかし、医学教育改革の影響が出るにはかなりの時間がかかる。黒川先生は、かなり悪化している医師と患者の信頼関係を改善する一つの方法として、市民がボランティアとして病院に入り、医師や看護師をもっと身近に感じるようなシステムを作ることを提案している。そして、表題にある大学病院改革については、かなり思い切った意見を出している。大学病院は外来をやめるという提言である。現時点では、ほとんどの人がそんなことできるわけないと思うだろうが、私は、これはありなのではないかと思っている。
全体として、現時点では実現不可能に思える提言が多いが、そのような提言を実行しなければ問題が解決しないほど、現在の大学病院を含む日本の医療制度は疲弊してしまっている。