手抜き実験のすすめ
大学院時代にお世話になった研究室は決してお金がないということはなく、むしろ、研究費は潤沢でしたが、何でも自分でやるというのが方針のラボでした。オリゴヌクレオチドの作成や精製は自分でやりましたし、白黒の写真の現像も自分で暗室にこもっておこなっていました。思い出してみれば、キットを使った経験はほとんどありません。現在の何でもキットのご時世からは信じられない話かも知れませんが、そのときの経験は今でもとても役に立っています。
そして、もうひとつよく言われたことが、オリジナルのプロトコールを忠実に守り、自分で勝手に省略したり変更したりしてはいけないということでした。オリジナルのプロトコールには、行間に書かれたTIPSが隠れていて、問題ないだろうと勝手に変更したり省略したりすると、うまくいかないことが多いと言われました。私も多少遠回りに思えたことでも出来る限り忠実に守っていました。
ただ、その研究室を離れると、ついつい安易な道をえらび、手抜きを覚えていきました。時に痛い目に遭うこともありましたが、手順が省けるというのはスピードの点から言うと重要です。たとえば、大腸菌のトランスフォーメーションでヒートショック後にアンピシリン入りのプレートにまくまでに60分間SOCで大腸菌を培養する。これはアンピシリン耐性遺伝子が発現するまでに小一時間かかるからと教えられましたが、実際には、この60分間の培養が必要ないということがわかったときには毎日の実験が1時間スピードアップしました。また、アガロースゲルを作る際、アガロースゲルが溶けてから型に流し込むまで10分くらい温度が下がるのを待ちますが、2倍の濃度で電子レンジでアガロースを溶かし、溶けたら等量の室温のバッファーを加えれば、すぐに型に流し込めます(固まってしまいそうで怖いのですが、絶対に固まりません)。これも私の実験のスピードアップに大きく貢献しました。
羊土社の新刊「手抜き実験のすすめ」は実験医学に4年間にわたって連載された手抜きテクニックを集めたものです。上に紹介した2つのテクニックも含め、たくさんの手抜きテクニックが紹介されています。紹介されたテクニックの中には、チップやチューブはオートクレーブする必要なしというのものまでありますが、私は今のところオートクレーブはしています。
こういう手抜きテクニックというのは、各研究室秘伝だったりして、なかなか知ることが出来ないもので貴重です。ちなみに、パート1の部分は実験をする上での心構えになっていますが、ちょっと冗長かもしれません。
「手抜き実験のすすめーバイオ研究五輪書」
著者:福井 泰久、岩松 明彦著、本体価格: \2,900、出版:羊土社、ISBN:4-89706-358-2、発行年月:2003.4【bk1】【amazon.co.jp】